神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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135 忘れられし女神編 決戦前夜 ハムート陣営

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 対ギガヘイルのために大陸中の国々が集って結成された大連合軍。
 膨大な兵数ゆえに、これを四つに分けて四方からの包囲殲滅戦をはかることとなった。
 かつてないほどに動員された圧倒的な兵量でもって、一気に勝敗を決しようという算段であるが、各々が自国より近い陣に馳せ参じることとなり、どうにか形になったというのが実情である。
 三ヶ月の猶予があったとはいえ、これがたとえ三年であったとしても、あまりにも多くの思惑が絡みすぎて、一枚岩にはなれなかったであろう。
 そこをいささか強引ながらも、この形にまで短期間にてもっていった冒険者ギルド本部の手腕こそが見事であったと、後に交渉の席についていた関係者らは語る。

 ハムート国はイクロス王子旗下の魔甲騎兵団、兵士、冒険者らを加えた総勢二万にて、東の陣営に参列。前線の一角を担うこととなる。

「ヨーコの奴はまだなのか?」

 整備主任としてこの度の戦に参加している工房のおやっさん。彼が声をかけたのはイクロス王子である。王子は操縦席にて愛機であるメテオールの最終調整をしているところであった。
 じきに夜が明ける。そうしたら出陣する。

「まだだ。どうせアイツのことだから、帰りの時間を計算に入れ忘れていたとか、そんなところだろう」

 やや苦笑いを浮かべるイクロス王子。なにせ同じような質問を部下のジンやレプラなどから、何度もされていたからである。

「しかし、どいつもこいつも、どうして私に訊ねるんだ? ヨーコの師匠はハウンドだろうに」
「そりゃあ、いまのアイツには声をかけ辛いからに決まっているじゃねえか。というか、あそこに割って入る度胸なんて、ワシにはない」
「……それは確かに」

 二人が話題にしているのはハウンドとラマンダのこと。
 かつての冒険者仲間との決闘で瀕死の重傷を負い、片腕をも失ったハウンド。
 しかし彼は義手をつけ不屈の闘志にて、厳しいリハビリを己に課し、この短期間にて見事に回復を成し遂げたのである。そんな彼の傍らには、ずっとラマンダの姿があった。
 男と女がくっつくには最上のシチュエーション。
 過去を拗らせて、ずっと微妙な関係であった二人が、ここにきてついに結ばれた。
 ヤキモキしていた周囲もやれやれと、安堵したまではよかったのだが、拗れていた期間が長かったものだから、その反動が凄まじい。特にラマンダのデレっぷりが酷くて、うっかり邪魔でもしようものならば、極大魔法が飛んでくるほど。
 すっかりピンク空間と化した彼らの側には、よほどのことがない限りは、誰も近づきたがらない。
 その余波がイクロス王子に及んでいたのである。

「あそこにズカズカ踏み込めるのは、ヨーコぐらいだろう」

 肩を竦めてみせる王子に「ちげえねぇ」と同意するおやっさん。
 二人してクククと笑う。
 そうしているうちに、空が明るくなってきて、ついに夜が明けた。
 同時に慌ただしくなる陣内。イクロス王子もおやっさんと別れて、本営へと向かう。そこで作戦の最終確認をして、いよいよ出陣となる。


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