神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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128 忘れられし女神編 宣戦布告

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 医者に無理だと言われたからって、素直に諦めるような男が、そもそも伝説の冒険者なんぞと呼ばれるトップランカーにまで、昇りつめられるワケがない。
 ハウンド師匠はラマンダさんの献身的な支えを受けて、黙々とリハビリに励む毎日。
 その右腕には黒鉄の義手が鈍い輝きを放っている。
 これは私が工房のおやっさんに頼んで作ってもらったモノ。
 義手とか義足なんかはもともとあった。しかも魔力を流すことで神経伝達の役割を疑似形成し、生身と遜色なく動かせる品が。魔導と科学が融合している分だけ、特定の分野では、こっちの世界の方が遥かに優れていることが多々ある。おかげで助かった。
 これにイクロス王子の専用機メテオールに使った最新技術を応用して、仕上げてもらった特注品が師匠の義手。
 あの機体同様に、じゃじゃ馬仕様につき、普通のヒトではとても扱えない。うっかり加減を間違えたら、自分の体が壊されるぐらいの暴れっぷり。
 それなのに体を治すついでに、これも扱えるようになろうと決めたハウンドさん。
 無茶をしがちな師匠の手綱は、ラマンダさんが握っているので、まあ、大丈夫であろう。

 ギルドの方はサブマスターのミアさんと、職員の皆さんで一致団結して頑張っているので問題ない。
 私の方はちょっと未来を模索中といったところ。
 より高みを目指すと誓ったものの、有効な手段があまり思い浮かばない。師匠は自分のことで手一杯だし、いちおうは考えがなくもないのだが……。

 ある日の午後、事態が急展開を迎える。

 ハムート国では王城内にて御前会議が開かれていた。
 その場に金魚のデメキンのような頭をした怪人が乱入したのだ。
 厳重なハズの警備網を抜けての出現に、周囲は騒然となる。
 だが不思議なことに、怪人は一切暴れる素振りもなく、それどころか王に向かって傅いてさえ見せた。
 様子を訝しんでいると怪人が口上を述べる。

「自分はギガヘイルの使者である。これより我らが首領ルギウスさまからの御言葉を伝える」

 大きな二つの瞳が光り、壁へと映像を投影する。
 映像の中には紅い甲冑を着た仮面の男の姿があった。

『今日この時より三ヶ月後、戦力を率いてカトブレパス平原に集え。彼の地を最後の決戦の場とする』

 音声もまた怪人の口より発せられていた。
 居合わせた者らの驚きをよそに、淡々と映像は続く。

『もしも誘いに応じないのであれば、この使者を送ったのと同じ方法にて、今度は死の病を遣わそう。戦って雄々しく死ぬか? 戦わずして緩慢なる苦痛の果てに死を迎えるか? どちらでも好きな方を選ぶがよい。願わくば汝らが勇敢なる選択をすることを』

 映像はそこでプツリと切れた。音声も同時に終わる。
 デメキン怪人の体はジュクジュクと崩れて、泡となって消滅してしまう。
 この出来事はハムート国に限ってのことではない。大陸中のすべての国々に対して行われた、同時多発的な宣戦布告であったのである。

 秘密結社ギガヘイルの宣戦布告によって、全世界が大混乱をきたす。
 ハムート国のように、これまで大なり小なり、結社の陰謀と関わった経験のある国は速やかに行動を起こす。
 各国の橋渡し役は、冒険者ギルドの本部が率先して動いた。怪人が起こす事件や暗躍する結社の情報は、前々から各支部からあがっており、もしものときにはと想定していたのである。
 とはいえ国と国とが、すぐさま手を携えて仲良しこよしとはいかないのが世の常。それが世界規模ともなると尚更。くだらない主導権争いや、上下関係や面子を慮ったり、旗振り役を誰にするのかなどで揉めて、調整が難航する。

「もしかしたら、ルギウスが期限を三ヶ月としたのも、この辺の事情を見越してのことであったのかもしれんな」とは、イクロス王子の談。

 そんな最中にあって、私はハウンドさんとイクロス王子に暇乞いをする。

「今のままじゃ連中に勝てないから、ちょっと修行してくる。決戦には必ず駆けつけるから」

 ハウンドさんは「必ず復活して参戦するから楽しみにしておけ」と言い、王子は「わかった。待っているぞ」とだけ言って、二人とも詳しいことは訊ねようとはしなかった。
 その場に居合わせたラマンダさんからは抱きしめられて「絶対に無理をしないように」と念を押される。どさくさ紛れに抱き着いてこようとした、ジルとレプラ両名の腕は華麗にかわす。
 他の親しいヒトたちには、ちょっと長期出張と誤魔化す。
 でもアミット姫にはすぐにバレて、ずいぶんと泣かれてしまった。
 そんな彼女に見送られて、私はフクロウフォームにて大空へと舞い上がる。
 目指すのは、私の原点にして始まりの島。
 あの巨大モンスターアイランドである。


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