神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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127 漆黒の亡霊編 心の在り処

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 荒野の決闘より七日後、ついに師匠が意識を取り戻す。
 喜びのあまり泣きじゃくるラマンダさん。彼女を残された左腕でそっと抱き寄せるハウンドさん。
 なんとなくいい雰囲気そうだったので、私は気を利かせてそっと廊下に出る。
 報を聞いて駆けつけたイクロス王子やギルドの関係者らにも事情を話し、一緒に並んでしばし待つ。
 じきに室内から声がかかり病室へと入ったら、ラマンダさんは師匠の病床に突っ伏して、安らかな寝息を立てていた。
 ほとんど不眠不休で看護していたから、しょうがないよね。

 ギルド関係者らが帰り、ラマンダさんも一旦帰宅して、王子と師匠の三人となったところで、ことの顛末や、彼の体の状況について、弟子の私から師匠に説明をする。
 すべてを知ったハウンドさんは、失われた自身の右腕の切り口に巻かれた包帯を、残された手でさすりながら「そうか」と短く答えたのみであった。
 しばしの重苦しい沈黙の後にハウンドさんが口を開く。

「デュラハが言っていた……、ついに敵の首領が動くらしい」
「ギガヘイルのボスだな。確かルギウスという名前だったか。この中では直に接したことがあるのはヨーコだけだが、どんな奴だった?」

 王子に訊ねられて、私はしばし考え込む。
 紅い甲冑を着た仮面の男。海底神殿の初見時にはチラリと見ただけだけど、グリーズレノウ国の地下施設ではちゃんと言葉を交わしたし、その姿を間近で見た。それらを踏まえた上での私の感想は「たぶん、むちゃくちゃ強い」というモノであった。

「空間みたいなのを割って出入りしていたところをみると、たぶん次元とかを自在に操れちゃう感じ? 至近距離から放ったマグロ・ストリームも軽くあしらわれたし、あの剣で空間断裂とか平気でやりそう」
「少なくともデュラハよりは強いことは確かだな。でなければアイツが大人しく従うわけがない」とハウンドさん。
「ジルス教国の宗主、各地で暗躍していた金髪の魔導銃使いのラミア、モンスターを操る黒髪の少年、リヴァイヴみたいな未知の化け物、怪人を次々と世に放っていたガイコツ博士……、どいつもこいつもとんでもないな。単独で傾国が可能な奴ばかりだ。それらを束ねていた男、いったい何を仕掛けてくるつもりなのか」
「デュラハも詳しい内容までは話さなかった。ただ世界規模でことを起こすつもりなのだけは間違いない」

 ハウンドさんからもたらされた情報により、厳しい顔をするイクロス王子。
 二人が今後のことを話し合っている隣にて、私はべつのことに考えていた。
 小娘に過ぎない私には、ルギウスが何を為そうとしているのかなんて、まるで想像もつかない。ただそれによって、これまでとは比べものにならないくらいの、より多くの血が流れることだけは、きっと確かなのであろう。
 いまの私に出来ることは、その時までに少しでも強くなっておくこと。
 本能、それとも直感? 理屈はわからないが、自分の中に確信めいたモノがある。
 漆黒の昆虫人、奴とは必ず拳を交えるときがくる。
 あの高く険しい壁は、私が乗り越えなければならない相手。

 どうすれば奴に勝てる。どうすれば……。

 敵を倒すことだけを考え、思い詰めていたら、不意に名前を呼ばれて思考が途切れる。
 顔をあげると、じっとこちらを見つめる師匠と目が合う。
 視線がいつにもまして険しく、迫力で思わずゴクンと息を飲む。

「ヨーコ、いまお前が何を考えていたのか、当ててやろうか」
「?」
「どうやって敵を倒すか、どうやってチカラを高めるかとか、そんなところだろう」
「えっ! どうしてわかったの」
「簡単だ。いまの自分の顔を鏡で見てみろ。アイツと、デュラハと同じ目をしているからな」

 慌てて、病室に備え付けられてある洗面台の下へ。
 鏡の中に映った自分に驚く。そこにはあの蒼い双眸と似た暗い瞳をした私がいた。
 これが……、チカラにとり憑かれた者の顔なんだ。

「いいか、ヨーコ。チカラを求めるのは何も悪い事じゃない。強くなりたいと願うことも、それに向かって努力することもな。だが性急に求めるあまり、大切なことを見失ってはいけない」
「大切なこと」
「おまえが闘う理由だ。それを忘れて目的のみを追い求めていたら、遠からずアイツと同じ道を辿ることになる。わかったな」
「……はい」

 知らず知らずのうちに堕ちかけていたとわかり、ぞっとする。
 チカラは手段であって目的じゃない。
 そのことを肝に命じ、私は更なる高みを目指すことを、固く心に誓う。


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