神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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126 漆黒の亡霊編 届かぬ想い

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 金の光と銀の光が激突し、残ったのは金の輝き。
 デュラハの金色の拳がハウンドの身を貫く。
 だがハウンドの拳はデュラハの身を貫くには至らない。外骨格を砕いたものの、半ばで留まっていた。
 拳速、威力、ともに遜色なし。あとわずか半歩、踏み込んでいればあるいは……。
 過去に決別した者と、過去を捨てきれなかった者との差が出てしまったのか。
 だが結果はかくの如し。ついに勝敗は決した。

「オレの勝ちだ……、ハウンド」

 光が収束し、勝ち名乗りをあげる漆黒の昆虫人。
 拳を引き抜いた拍子に、旧友が膝から崩れ落ち、力なく倒れる。
 ピクリとも動かないハウンドを、黙って見降ろすデュラハ。
 二人に冷たい雨が容赦なく降り注ぐ。



 漆黒の拳に貫かれたハウンドさんの体がゆっくりと倒れていく。
 それを目にした瞬間、私の感情は一気に沸点を超える。
 すべてが激情にて真っ赤に染まった。

「きさまーっ!」

 黒猫の着ぐるみが怒りにまかせて放った拳。
 かつて海底神殿で相対した時には、たった二本の指で防がれた攻撃が、今度はガッチリと鷲掴みにされて止められた。あれから修行をして強敵らとの死闘を経て、それなりには強くなったつもりだったけど、まだまだコイツには届かない。
 腕を絡めとられ、ぐりんと体をまわされて、背中から地面へと叩きつけられたところを、上から踏みつけられる。
 ジタバタともがくが、動きを完全に封じられて身動きできない。
 泣きながら「ちくしょう、ちくしょう」と私は叫んでいた。

「この気配……、姿は違えども、あのときの小娘だな。悔しいか? 師の仇も討てぬ非力な己が情けないか? だったら強くなれ。ハウンドよりも、このオレよりも、誰よりも強くなれ」

 一層のチカラを加えられて踏み抜かれ、大地が割れて私の体が地面へとめり込む。

「強くなれ! ハウンドの弟子よ」

 地面に埋もれた黒猫にそれだけ言うと、ふっと奴の気配が掻き消える。
 ようやく這い出してきた頃には、奴の姿はどこにも見当たらなかった。
 ドス黒い感情が湧いてくるのを抑えられない。
 私は初めて心の底から誰かを殺したいと思っている。これは復讐心だ。それがシミとなり、心をどんどんと浸蝕していく。
 すべてが黒く染まりかけた、そのとき、視界の片隅でピクリと師匠の指先が動いた。
 それを見た瞬間に、心の内に満ちようとしていた黒い靄が四散する。
 私は慌ててハウンドさんのもとへと駆け寄った。



 師匠は、かろうじて一命を取り留めるも、意識不明の重体の状態が続いている。
 全身が傷だらけで、筋肉や靭帯の断裂も酷く、右腕にいたっては損傷が酷過ぎて切断を余儀なくされた。
 医者をして、生きているのが奇跡だと云わしめる状況。
 ハウンドさんの鍛え抜かれた肉体と類まれな精神力の賜物だが、彼の命を救った要因は他にもある。それはラマンダさんが使用したアイテム。
 見た目は青い水晶のネックレスなのだが、そこに『癒し』と呼ばれる回復魔法が封じ込められてあったのだ。
 なんでもかつての仲間で親友でもあった女性から、もしもの時のためにと託された品であったらしい。おかげで師匠は助かるかもしれない。でも……。

「ハウンドはまだ目を覚まさないのか」

 イクロス王子から声をかけられて、私は黙って首をよこにふる。
 師匠が都の病院へと担ぎこまれてから、すでに四日が経過していた。
 その間中、ラマンダさんはつきっきりで看護をしている。
 王子も日に一度は必ず病室へと自ら足を運んでは、容態を確認していた。

「ラマンダもだが、お前も少しは休め。体がもたないぞ」

 心配されても元気なく「うん」と頷くのみの私に、王子は言葉を続ける。

「ハウンドの体のことは聞いている。残念だが戦いの世界に身を置く以上は、こういう結末を迎える者も少なくはない。いまはそれを嘆くよりも、命があったことを喜ぼう」

 リハビリにて日常生活に支障がない程度には回復するだろうが、かつてのように戦うことは不可能。それが医師の見解であった。


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