123 / 153
123 漆黒の亡霊編 デュラハ
しおりを挟む尊敬できる師、競い高め合える友、信頼する仲間、恋い慕う女。
良縁に恵まれた半生であったと思う。あの頃は、毎日が楽しくてしようがなかった。
だが、それを壊したのは己の過信……。
冒険者のトップランカーとしてもてはやされ、調子に乗っていた。
仲間の忠告に耳を貸さず、心配してくれた友の言葉を「自分に嫉妬している」なんぞと勘違いし、惚れた女に呆れられていることにも気づけない。なんと愚かであったことか。
挙句の果てにはチカラに驕り、油断をして大怪我を負ったオレなんかを救うために、フィオナは無理をして死なせてしまった。
彼女は超一流の『癒し』の使い手であった。
癒しは即効性のある回復魔法。それこそ瀕死の状態からでも復活させることが可能で、神の御業のごとき奇跡を為す。だがそれだけに使用者にかかる負担も大きい。それこそ命を縮めかねないほどに。
ゆえに通常時の使用では、傷口を塞いだり出血を止めたりといった、あくまでも一時的な救護処置に留めておく。
それをフィオナはオレなんかのために限界を超えて酷使した。
その結果、反動で肉体が自壊し、無残な最期を遂げてしまう。
すべてを知ったのは、病院のベッドで目覚めてからのこと。
すでに葬儀は済まされた後であった。
彼女の遺体は、あまりの損傷の酷さゆえに、火葬にて弔われたという。
オレは自分の軽率な行動のせいで、大切なヒトを永遠に失った。
ハウンドは「お前のせいじゃない。フィオナが自分で選んだことだ」と言った。
ラマンダは何も言わない。親友を殺した相手に恨み事のひとつも漏らさない。
攻守に優れ、視野が広く、つねに冷静沈着な判断をするリーダーのハウンド。
世話役で、高火力の魔法による攻撃が得意であったラマンダ。
アタッカーとして前線にて戦うオレことデュラハ。
癒しの能力にて後方支援を行うフィオナ。
歴代最強との呼び声も高かったパーティーは、ムードメーカーであったフィオナが欠けたことによって、ほどなく空中分解を起こし解散する。
ハウンドはギルドマスターへの道を歩む。前々から本部より打診されていたようだ。
ラマンダは孤児院を兼ねた寄宿舎学校の創設へと動き出した。これは生前のフィオナとの約束事でもあったらしい。彼女たちは二人とも孤児で、いずれは自分たちのような身の上の子どもたちのために、寄る辺となる場所を創ろうと決めていたんだとか。
そしてオレは、逃げるように彼らの前から姿を消した。
どうしても自分が許せない。
非力な自分が。
むざむざと惚れた女を死なせてしまった自分が。
愚かな自分が許せない。
だからチカラを求めた。
何ものにも屈しないチカラがあれば、何かを失うことなんてないだろうから。
各地を転々とし、ひたすらチカラを求めて己を追い込み、闘い続けた果てに辿りついたのは、ほとんど忘れさられた古き伝説の残る修練場。
ヒトどころかモンスターすらも寄りつかない荒野の奥にある、四方を深い谷に囲まれた過酷な台地。
かつて勇者が修行に使っていたという場所にて篭ること数年。
鍛錬に鍛錬を重ねていると、不意に異様な気配を感じる。
空間が揺らぎ、姿を現したのは紅い甲冑を着た仮面の男。
ひと目でわかった。コイツは強いと。
「馴染の場所がなにやら騒がしいと来てみれば……。いまどき酔狂な奴がいたものだな」
男はルギウスと名乗った。
オレは彼に闘いを挑み、そして負けた。
完敗だった。天と地ほどの実力差が二人の間にはあった。
「もっと強くなりたいか? 更なるチカラを求めるか?」
ズタボロとなり地面に這いつくばるオレに向かい、ルギウスがそのような言葉を口にする。
「当然だ!」
わずかに残った気力を振り絞り叫ぶ。その拍子にゴボリと血を吐くも、気にはしない。
「ならば私と一緒に来るがいい。協力するのならば、チカラをくれてやろう」
ルギウスより差し出された手を掴む。
ためらいはない。ようやくにして目指すべき頂を見つけたのだから。
オレは強くなる。そして必ずコイツを超えてみせる。
0
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる