神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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116 永遠の国編 地底の大空間

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 フクロウフォームにて、ゆっくりと暗闇の中を降りていく。
 目的地が近づくほどに空気が濁り、不快な臭気が増す。
 落とし穴を抜けた先に広がるドーム状の広大な空間。
 辿り着いた先はゴミ捨て場であった。
 ゆっくりと着地してから、黒猫の着ぐるみフォームに変身し、周囲の様子を観察する。
 ゴミの分別なんて気の利いたことはされてない。鉄片、割れたガラス、木の板や角材、紙くず、そして醜悪な肉塊やヒト型をした何か……。これらが無造作に積み上げられて、いくつもの山ができている。すべてがごちゃまぜで乱雑。まるで悪夢の中に迷い込んだかのような光景。
 ときおり上空よりモノが降って来る。
 どうやら私が落とされたような穴が、他にいくつもあるようだ。
 頭上からモノが降ってこない場所を選び、その時が来るのをじっと待つ。

 しばらくすると、ドレイクとアナが連れ立って現れた。

「やはり平気なようですね。高所から落としたぐらいで、どうにか出来る相手だとは思っていませんでしが、すり傷一つないとは呆れますね」
「ヨーコちゃん、すごーい」

 しゃらんと暗闇からトゲの蔓が伸びてくる。
 アナの手によるものだ。兵士の鎧や盾をも容易く引き裂いてしまう、イバラの鞭。私はこれを猫爪にて難なく両断してみせる。
 すると彼女の顔から笑顔がすぅーと消えた。そしてその身が緑へと変色し、イバラだらけの怪人と化す。

「駄目だよ、ヨーコちゃん。先生がお望みなのにイヤがったりしたら、罰があたるよ」

 風切り音を鳴らしながらイバラの鞭が飛んできたので、これをしゃがんで躱す。
 鞭をうけてゴミ山の一部がごっそりと抉れる。
 洞窟の入り口で見せたチカラとは段違いの強さ。完全に怪人化したことで攻撃力が跳ねあがっている。
 びゅんびゅんと蔓の鞭を振り回しては、主人の命じるままに、黒猫の着ぐるみを捕獲しようとするイバラの女怪人。
 説得を試みるも、私の言葉は彼女に届かない。だからとて、彼女を殺せるほど割り切れない。
 激しい鞭の攻撃をかい潜り、アナの懐に潜り込むと、鳩尾に肉球掌底を強めに決めて、その身を吹き飛ばした。
「きゃあ」可愛らしい悲鳴をあげて、ゴミ山の向こう側にまで豪快に飛んでいくイバラの女怪人。

「おやおや、友達を殴り飛ばすだなんて、ヨーコくんは酷いねえ」

 自分でけしかけておいて、そのようなことを口にするドレイク。
 キッと猫目で睨むも、奴はどこ吹く風で喋り続ける。

「もっともギガヘイルの六柱のうち、三柱をも退けたキミを、アナごときでどうにか出来るだなんて、はなから期待してなかったけれどね」
「だったらアンタが相手をしてくれるのかい」
「もとよりそのつもりだよ。だからこそ、ヨーコくんをわざわざ、この地の底まで招待したのだから」

 その言葉が終わるやいなや、ドレイクのガイコツ姿が変身を始めた。
 内部より何本もの白い骨が上着を突き破って飛び出し、周囲のゴミ山へとのびる。ザクザクと突き刺さった骨の管のようなモノが、ズズズと不気味な吸引音を立てる。
 地下のドーム全体が、どくん、と脈打ち揺れた。
 骨だけの体に肉がまとわり付く。
 たちまちのうちに巨大化して、ティラノザウルスのような姿へと変貌を遂げる。

「どうだい? 少しは驚いてくれたかな。最後にもう一度だけ訊くけど、大人しく言う事をきくつもりはないかな。そうすれば手荒な真似をしなくてもすむんだがねえ」

 実験動物に甘んじろだなんて申し出は、もちろん断固拒否だ。
 猫頭をぐらぐら横に振ったこちらの姿を見て、嘆息した後に猛然と突っ込んでくるドレイク。
 凶悪な牙が並ぶ大きな口が迫る。
 が、だからどうした?
 奴がさっき自分でも語っていたではないか。私は三柱をしりぞけた女だと。特にリヴァイヴに関しては桁違いの相手だった。少なくとも目の前の恐竜もどきなんて目じゃないほどに。
 迫る顎に猫パンチにてアッパーカットを喰らわせ、ガクンと崩れてきたところを猫爪で一閃。その首を一刀のもとに斬り落とす。
 首は刎ね飛び、残された胴体からは血が噴き出すこともなく、ドサリと横に倒れた。

 弱い。あまりにもあっけなさ過ぎる……。
 仮にも数多の怪人らを産み出した人物が、こんな簡単に死ぬものだろうか。

 そんなことを考えていたら、ゾクリと背中に悪寒が走り、尻尾の毛が逆立つ。
 後方へと飛び退いたのは、本能による反射行動。
 直後に聞えてきたのは「気づかれたか」というドレイクの残念そうな声。それは地面に転がる恐竜もどきの首から発せられたもの。切断面より蛇の骨のようなモノがにょろにょろとのびている。もしも回避が遅れていたら、アレに絡めとられるところであった。
 首と胴体は、各々が最寄りのゴミの山へと骨の触手をのばし、これらを取り込むと、二つは結合して再び一つとなる。
 より大きく、より凶悪さを増した姿にて、立ち上がるドレイクの変異体。

「これが私の能力、『吸収合成』だよ。これによって私は不滅の肉体を手に入れ、刻の呪縛より解き放たれた」

 斬っても死なない体。
 周囲のモノを取り込むことで再生が可能。
 ここならば自分の体を合成する材料にこと欠かない。だから彼はここを闘いの場に選んだのか。
 ギガヘイルの六柱が一人、ドレイク。
 不死にも等しい魔人が、黒猫の着ぐるみに牙をむく。


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