神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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108 永遠の国編 消える村人たち

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 フクロウフォームにて遠方にお使い中のこと。
 重苦しい曇天につき、急いだもののパラパラときて、あっという間に降り出し、じきに嵐となった。
 しばらく頑張ってみたが空が真っ暗にて、雲が渦を巻き、稲光まで走っては堪らない。
 私は慌てて地上へと避難する。
 次第に強くなる雨脚、追われるように辿り着いたのは辺境の小さな村。
 変身を解いてから、手近な一軒の扉を叩く。
 中かから姿をあらわしたのは、背中の曲がった老婆。
 彼女はすっかりズブ濡れとなった私の姿を見るなり、「早くお入りなさい」と招き入れてくれた。

 服が乾くまでの着替えだけでなく、温かい食事やお茶なんかも振舞ってくれる老婆。愛想はあまりよくないけど、いい人みたい。
 当たり障りのない会話が途切れるたびに、二人の間に横たわる沈黙が外の雨音によって埋められる。
 嵐はますます激しくなるばかり。一向に収まる気配はない。

「今夜は泊まっていくがええ」

 老婆の厚意に甘えることにした私は、用意された部屋にて就寝。
 疲れがたまっていたのだろう。屋根を打つ雨の音を子守歌に、じきにウトウトし始める。

 ふと、目が覚めた。

 あれほど騒がしかった雨音が止んでいる。
 とても静かだ。
 室内が暗いところをみると、まだ夜中なのだろう。
 いつも寝起きしている冒険者ギルドの施設は、二十四時間営業につき、つねに誰かの気配が感じられる。そんな賑やかなところで生活しているせいか、静か過ぎるとかえって寝つきが悪くなるのかもしれない。
 ぼんやりとそのようなことを考えているうちに、どんどんと意識が覚醒していく。それとともに思考が活性化し、「違う」との結論が出て、私はベッドから跳ね起きた。

 違う! 静か過ぎるのだ……。

 同じ屋根の下にいるはずの老婆の気配が、まるで感じられない。
 これが早朝とかだったら、畑にでも出ていると考えられる。でもいまは雨上がりの夜中だ。お年寄りが外をウロウロするような時間じゃない。
 冷静に考えたら、はじめっからヘンだったのだ。
 夜更けに、十才ぐらいの少女が濡れネズミで押しかけたというのに、老婆は理由を訊ねようともしなかった。普通ならばあり得ない。

「変身」

 小声でつぶやき、黒猫の着ぐるみ姿となる。
 猫耳をピンと立てる。神経を研ぎ澄まし、周囲の様子に耳を傾ける。
 だがやはり何も聞えてはこない。
 この家だけじゃない。ご近所どころか、村のどこからも何ら生き物のいる気配が感じられない。
 家中をくまなく探すも、老婆の姿はどこにもなかった。
 外に飛び出し、すぐ隣にあった家の扉を叩く。すると扉はなんら抵抗することなく開き、中には誰もいなかった。
 村中の家をしらみ潰しにするも、誰の姿も見つけられない。

 そんなバカな! 昨夜には確かに家々には明かりが灯っていた。
 姿こそは見ていないが住人らの気配もあった。
 それらが一夜にして消えるだなんて……。

 村の中をウロウロとしているうちに、じきに夜が明ける。
 まぶしい朝日に照らされた村は、やはり無人であった。
 もしかしたら村の外で秘密の集会でもしているのかもと考え、しばらく待ってみたけれでも、ついに姿を現すものはいなかった。
 まるで悪い夢でも見せられたかのような心持ちにて、私はその村を後にする。



 自分が体験した奇妙な出来事をギルドマスターのハウンドさんに報告すると、実は似たような話が、かなり古くから辺境各地にて伝わっていると教えられた。
 一夜にして消える村人たち。
 私と同じような経験をした冒険者らが少なからずいるそうで、ギルド側としても正式に調査団を派遣したこともあるんだとか。犯罪性も疑われたので国が動いたケースもあるという。なのに今もって原因は不明。
 ギルドが抱えている積み案件の一つとして、長らく熟成されている。
 これに似た案件としては、「墓荒し」と「消える死体の謎」というのもあるそうな。
 埋葬された装飾品を狙った墓荒しは、別に珍しくもなんともない。だけれども問題となっているケースは墓所にあった全ての墓穴が荒らされるのである。そのくせ金目の物には一切手をつけずに、遺体だけが忽然と姿を消す。
 消える死体の謎に関しては、紛争地帯や戦場にて大量に出た戦没者たちが、一夜のうちに跡形もなく消えてしまうという事件が、稀にだが起きる。
 どちらもモンスターの仕業かと思われるのだが、どうにもその正体が掴めない。
 もしもこれらの難事件を見事に解決したら、ギルドだけでなく各国が提示している報奨金を丸ごと独り占め出来て、一攫千金どころではないとのこと。

「せっかくだからヨーコも挑戦してみるか」
「面倒だからやめておく。なんとなくだけど関わるとロクなことにならないような気がする。それにあんな得体の知れない目に合うのは、もうコリゴリ」

 ぶるると震えて私がそう言うと、師匠は「それは残念」と肩を竦めてみせた。


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