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104 ヒト喰いの地編 大山鳴動、珠ひとつ
しおりを挟む派手に三つの必殺技を合体させたまでは良かったものの、白銀の巨人の装甲をぶち破った勢いにて、まさか貫通して地中深くにまでめり込むとは……。
威力は凄まじいんだけれども、制御はほとんど不能につき、これは封印確定だね。
今回は目標がデカかったから運よく技が決まっただけで、通常サイズの敵だったら、まず当てるのは無理。とても軌道修正とか細かい操作が出来そうもない。
あと目が回って気分がすこぶる悪い。
ヨチヨチと穴倉の底から這い上がってきた黒猫の着ぐるみ。
猫目を通して見える地表の惨状に、私は唖然とする。
地面は大きく抉れて巨大なすり鉢状となり、かなりの広範囲の森がすっかり焼け野原。白銀の巨人の影も形もありゃしない。
のみならず湖すらもが跡形もなく消え失せていた。
どうやらリヴァイヴは盛大に爆ぜたようだ。
ふむ。私が地中にめり込んでいたのは、結果的には幸運であったみたい。でないとコレに巻き込まれて一緒に消滅していたな。
おっ! 向こうから魔甲騎兵の一団がやってくる。
どうやら王子たちも巻き込まれずにすんだようだな。よかった、よかった。
「ヨーコ、無事か? もの凄い爆発だったから、さすがに心配したぞ」
私の身を案じてくれる腹黒イケメンなイクロス王子。そんな彼に私は……。
盛大にゲロをぶち撒けた。
変身を解いて少女体になった途端に込み上げてくる、堪えようのない不快感。ぐりんぐりんと目が回り、脳みそが揺れる。遅れてやって来た反動ダメージが、ここで一気に弾ける。
自分でもビックリするぐらい、ジャーっと口から飛び出たよ。
なお、これを受けて王子か激怒したのは言うまでもない。
ぐったりとのびている私を尻目に、調査兵団の面々が戦いの跡地を検分していた。
気分が悪くなっただけではすまなくて、全身がバッキバキに痛む。
三つの技を同時に使うのは、改造体といえどもかなりキツイようだ。
兵団車両に備え付けられてあるシャワー室で汚れを落とした王子が、濡れ髪バスローブのセクシー姿にて部下たちからの報告を受けているが、結果はあまり芳しくないよう。
何もかもがあの爆発で消えてしまったみたい。
白銀の魔甲騎兵にしろ、巨人にしろ、その体の一部でも見つかればかなり有益な情報となり得たのであろうが。
そんな中にあって唯一、回収されたのが半透明の宝珠であった。
「これは……、ヨーコがジルス教国から持ち帰った品と同じだな」
ジルス教国と連合軍の戦争の際に、敵の本拠地にて手に入れた水晶っぽい珠。黄色く光っていたのが、輝きを失い白濁した姿に変じたことは報告してある。
それと同じ品がここでも見つかったことの意味は考えるまでもない。元よりなんらかの繋がりが両者にあったのは、わかっていたことだから。
だがそれよりもイクロス王子が気にしたのは「あれほどの大爆発にあってさえ、壊れることがなかった」という事実。
以前に回収した品は魔導具の専門家らに分析させているというが、まだ詳細は不明のまま。この頑強さといい、タダの水晶なんかじゃないことだけは確かなようである。
その後も一晩、この場所に留まって捜索するも、成果はなし。
翌朝になって調査兵団は帰国の途につく。
車外の景色を眺めながら小難しい顔をしている王子に、ようやく起き上がれるようになった私が声をかける。
「どうしたの、そんな顔をして」
「あぁ、ちょっと気になることがあってな」
「?」
「あの巨人は確かに大きかった。とんでもない量の資材が投入されていることも、容易に想像がつく。だがどうにも計算が合わない」
各地で強奪されたという資材は、すべてを合わせると途轍もない量となる。
まとめて積み上げたら、それこそ山が五つ分ぐらいに達するほど。
それらをすべてつぎ込んだにしては、あれ一体だけだと、ちょっともの足りない。
なんて怖いことを仰るイクロス王子さま。
「もしかしてアレと同じようなのが他にもいるとか」
「ざっとした計算だが、少なくともあと一体ぐらいは作れる量の資材が残っているハズなんだ。だからそのときは、また頼むぞヨーコ」
えーと、それってつまり、また巨人が現れたら「黒猫スピン・マキシマム」を使えと言うことだよね。
うにゃーん。
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