102 / 153
102 ヒト喰いの地編 白銀の巨人
しおりを挟む白銀の魔甲騎兵から姿を現したのは、愛機と同じ色をした大柄なマネキンだった。
形状からして男性なのだろう。ただし顔はない。愛機の頭部によく似た、レンズのような大きな紅い目が中央に一つあるだけ。
彼がリヴァイヴ……、見たことのない種族だ。
「よもや我が愛機とここまで闘えるとはな。見事だ、イクロス王子」
リヴァイヴは大仰に拍手をしてみせ、対戦相手の健闘を称える。
一見すると戦闘後の爽やかなやりとり、だというのに私は引っかかっていた。
彼らが闘っている間中、周囲をかこんでいる連中がちょっかいを出してくることはなかった。それどころか二人の決闘が終結すると同時にそれらの気配が消えた。
普通は逆じゃないの? 自分たちのボスがやられそうになったら助けに入るなり、邪魔をするもんだろう。なのに連中は引いた、どうして?
本当に偶然だった。
何気なく視線が湖の方をチラリと向く。
するとさっきまで、さざ波ぐらいしか立っていなかった湖面が、ザワザワと波打って荒れている。
この光景を見た瞬間に、黒猫の着ぐるみフォームの尻尾の毛がビビビと逆立つ。
これは何度か経験がある。特大級にヤバイときの反応だ。
通信にてイクロス王子に危険が迫っていることを報せた直後に、それが起こった。
湖の中から、にゅうっと大きな何かが伸びてきて、リヴァイヴの体を呑み込む。
巨人の腕が彼を掴んだことを理解するのと同時に、イクロス王子が「全軍撤退!」と叫んでいた。
すかさず動けないメテオールごと王子を両脇に抱えた味方機らが、その場から逃げ出すのに平行して、調査兵団も即時撤退を開始する。
ゆっくりと上体を起こし始めた巨人。
必死に距離を稼ごうとする味方勢。
やがてその全貌が露わとなったとき、絶望が大地にそそり立つ。
湖を割って姿を現したのは白銀の巨人。
昔の超合金の玩具のようにモッサリとした容姿なのだが、とにかくデカい……。
マジかよ、駅前のタワーマンションぐらいもあるぞ。
これがリヴァイヴの魔甲騎兵が、湖の中央から岸まで平然と水の上を歩いていたカラクリだったんだ。奴は水中に潜んでいたコイツの腕の上を歩いていたんだ。
「大量の資材を集めてたのって、もしかしてコイツを造るためなの」
いかなる時にも冷静沈着なイクロス王子ですらが、呆れて二の句を繋げないほどの異様な巨体。さしもの魔甲騎兵を駆る勇猛な騎士らとて、あの巨人の相手は荷がかち過ぎている。最悪、ひと踏みで全滅もあり得るぐらいの圧倒的な質量だ。
だがデカい相手はヨーコさんの得意分野、だからここは私が引き受けることにする。
「王子、アレの相手は私がするから。みんなを連れて出来るだけ離れて」
それだけ言うと返事を待たずに黒猫の着ぐるみが飛び出す。
「おい、ヨーコ! ちょっと待て」
呼び止めようとしたイクロス王子の声を遥か後方に聞き流し、黒猫の着ぐるみが大地を疾駆し、白銀の巨人へと立ち向かう。
近づくほどに、その大きさに怯みそうになる自分の心を鼓舞し突撃。
渾身の猫パンチを巨人の脛の部分へ、「にゃあー」と気合を入れて放つ。
カン、と金属の固い音がするも対象は無傷。
わずかにヘコみもしやしない。
続けて猫キックを放つもダメ。猫爪で「にゃあにゃあ」引っ掻くと、表面にわずかながらの傷がついたのみ。ならばと猫目ビームを至近距離で照射するも効かない!
この頑丈さ、以前に戦った黒いゴーレムと同じ素材なのかも。あの時は何とかなったけど、さすがにこのサイズでは、温めて冷やしてモロくするという戦法は使えない。
どうしたものかと逡巡しているうちに、動き出す白銀の巨人。
超巨体、超重量ゆえに動作はゆっくり。だけど一歩が大きい。歩くだけで震度七クラスの地震が発生。大地が揺れ、爆撃されたみたいに周囲が破壊される。
「変身! 第三フォーム」
足下でチマチマ攻撃しても埒が明かない。フクロウフォームに変じて飛翔する。
これだけの巨体だ。どこかに体内に侵入できる箇所はないかと考えたのだ。外から駄目ならば内から。
これより一寸法師作戦を敢行する。
0
お気に入りに追加
356
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる