神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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99 ヒト喰いの地編 白銀の魔甲騎兵ふたたび

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「なんだ……、アレは?」

 この地に無事に着いた翌朝のこと。
 誰が最初に見つけたのかはわからない。
 ポツンと湖の中央に浮かんでいるモノがあった。
 それが、かつてジルス教国との戦争で見かけた、あの白銀の魔甲騎兵だとわかったとき、すぐさま臨戦態勢がとられる。
 まるでこちらの準備が整うのを待っていたかのように、悠然と湖の上を進んでくる魔甲騎兵。

「浮いてるんじゃないよねえ。見えない足場でもあるのかな? だとしたらやっぱりこの湖も、ただの水溜まりってわけじゃなさそうだ」
「そのようだな。しかもどういう理由かは知らないが、歓迎してくれているみたいだ。いや、それとも誘い込まれたか」

 青い機体の肩に黒猫の着ぐるみフォームにて待機していた私と、操縦席に座るイクロス王子が話していると、白銀の魔甲騎兵から声が届く。

「その紋章に青い機体、以前とは随分と姿が変わっているようだが、ハムートのイクロス王子とお見受けするが?」
「いかにも、リヴァイヴ殿もご健勝そうでなにより」

 名指しされた王子が答えると、くぐもった愉快そうな笑い声が聞こえて来た。

「くくく、相変わらずの胆力よ。自ら一軍を率いてやってきたと聞いてな。これはぜひとも歓迎せねばと待っておったのよ。いざ、いつぞやの決着をつけようぞ」

 リヴァイヴが岸辺に姿を表すのと同時に、周囲に満ちる不穏な気配たち。
 こちらをガッチリとり囲んでいる。どうやら王子の読みはどちらも当たりだったみたい。もしも勝負に応じなければ、という無言の圧力。これは勝っても負けても大変そうだ。

 その時である。
 味方の魔甲騎兵の一機が飛び出し、くり出された剣の切っ先が猛然と白銀に迫る。
 黒銀、ジンの乗る機体だ。
 斜め後方からの不意打ち。操者の騎士としては、主を守るための攻撃であったのだろう。
 だがその忠義の刃は白銀の魔甲騎兵の手によって、容易く受け止められる。
 自分へと向かってきた刀身を握りしめる。ただそれだけの動作によって。
 黒銀の魔甲騎兵の駆動輪が激しく回り、地面を抉っている。
 だというのに、白銀は微動だにしない。

「いい突きだ。思い切りもいい。だがせっかくの勝負に水を差すのは感心せぬな」

 リヴァイヴの機体が空いている手で腰の剣を抜く動作を見せたところで、イクロス王子が待ったをかける。

「部下の非礼は詫びる。勝負にも応じよう。だからその者はご容赦願えぬか」

 その声でピタリと動きを止めるリヴァイヴ。
 ガキンと鈍い音がして、握りしめていた切っ先が折れた。拘束が不意に外れた機体が前へとつんのめる。その胴体部分を蹴り飛ばす白銀の魔甲騎兵。
 ちょうど操縦席あたりに蹴りを喰らい後方へと転がったジンは、それきり沈黙した。おそらくは衝撃で脳震盪でも起こしたのであろう。

「先の戦場でもそうであったな。いかなる時でも部下の身を案じるか……。ここにいる騎士どもは良き主に仕えられて幸せよな。その忠義に免じて今の無礼は不問としよう」
「感謝する。では」
「いざ、心ゆくまで存分に死合おうぞ」

 王子の愛機が動き始めたので、私はひょこんとその肩より降りる。
 圧倒的性能を誇る白銀の魔甲騎兵を駆るリヴァイヴ。
 メテオールと命名された青い愛機にて、これに対峙するイクロス王子。
 果たしておやっさんが心血を注いだ新型機が、どこまで通用するのか。
 いまここに史上最高の魔甲騎兵同士の決闘が幕を開ける。


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