神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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98 ヒト喰いの地編 調査兵団

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 豊かな自然と大きな湖のある土地。かつては大国が栄えていたこともあったが、この地よりヒトの姿が絶えて久しい。
 もちろん、それだけの土地なのだから、これまでにも食指を動かした国や者たちは大勢いた。だがその全てが失敗に終わる。調査に赴いた者、軍隊、移民……、そのすべてが彼の地にて消息を絶ったからである。
 誰一人とて戻ってはこなかった。
 いつしか人々の間で、このような事が囁かれるようになる。

「立ち入る者みな喰われてしまう。あそこはヒト喰いの地だ」

 そんな土地に、これから私たち一行は足を踏み入れようとしている。
 各地で頻発する謎のゴーレムによる鉱山襲撃と資材強奪事件。奪われた資材の流れを追っているうちに、全ての糸がこの地へと繋がる境界線にて、プツリと切れていることが判明する。
 これを受けて、冒険者ギルドから二度ほど腕利きを現地に向かわせるも失敗。国の方からもヒトを送ったがコレも同様の結果に終わる。いずれも消息を絶った。
 なおこの地域では、何故だか通信用の魔導具は使用不可。

「あそこに何かがあるのは間違いない」

 そう断じたイクロス王子は、自らが率いる調査兵団を派遣することを決定した。
 五十もの魔甲騎兵に騎士たち、ギルド側から派遣された斥候部隊などを合わせると、総勢で百人を超える集団。その中には私こと見習い職員のヨーコも含まれている。
 私は師匠でありギルドマスターのハウンドさんからは、「いざというときには、王子の身柄だけでも確保せよ」との密命を受けている。
 なにせ向かう先はいわくが満載な土地。絶対に何かがあるのは確定事項にて、本来ならばハムート国の王子が自ら出向くことにも、かなり反対の声が上がっていたのだ。
 それでも彼は強行する。
 後になって思えば、きっと彼の中で何らかの予感めいたものがあったのであろう。

 ヒト喰いの地と呼ばれ、近隣から恐れられている場所へと一歩足を踏み入れる。
 まず最初に感じたのは「本当に無人なの?」ということ。
 街道には雑草の一本も生えていない。よく整備されており、むしろ下手な国よりも、よっぽどキレイなぐらいだ。
 森の草木などもヒトの手が入らないと、あっという間に密度が増して鬱蒼となるというのに、それもない。地面もぬかるんでいないところをみると、適度に剪定すらされているのかと疑いたくなるほど。
 ここは何者かに管理されている。というのが同行したみんなの見解。
 そして次に感じたのは、土地に満ちている得体の知れない不気味さ。
 整えられた世界なのに、そこには誰もいない。ヒトという存在が拒絶されているみたいで居心地が悪く、どうにも落ち着かない。あるはずのモノが一つ足りないだけで、心がぞわぞわする。ゴーストタウンとかに迷い込んだら、こんな感じになるのかな?

 昔の記録により平原を経て、広大な森の奥へと続く街道を進むと、大きな湖に出ることはわかっている。森の手前までは問題ない。踏み入った者たちが帰ってこないのは森に入った後。ゆえに調査兵団のみんなは気を引き締めて、互いに注意しながら慎重に進んでいく。
 異様な森であった。
 植生は豊か、なのに生き物がいない。獣やモンスターどころか、虫すらも見当たらない。耳に聞こえてくるのは、風でゆれる枝葉のこすれる音ぐらい。
 通常の静寂とは違う静けさ、怖気がこみ上げてくる。
 敵は現れない。
 慣れない状況と雰囲気に、肉体よりも精神が疲弊していく。

 三日後、ついに森を抜けた。
 空を映す鏡のような穏やかな湖面。目の前に広がる大きな湖は青くてキレイだ。
 だが、やはりここもヘンであった。
 湖岸は型で切り抜いたかのように、きちんとした楕円形であり、普通ならばあるはずの落ち葉や流木の類がひとつも浮かんでいない。
 もしもこれが庭先の小さな池とかならば、手入れが徹底されているだけで済むが、この規模だと神経質を通り越して、病的な何かを感じさせる。
 何らかの狂気が横たわっているかのように、私の目には映った。

 その日は周辺の探索のみで終了。
 本格的な調査は明日以降に持ち越しとなる。


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