神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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94 隠密講座

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 元伝説の大怪盗にして、現在は王子の手下Bに成り下がっている、おじいちゃんのワイトさん。彼が本日ギルドに来ている。ちなみに手下Aは私だ。
 目的は若手の斥候職らに特別講義をするため。もちろん経歴は隠して、隠形術の達人ということにしてある。
 あとで知ったのだけれども、いまだに怪盗ワイトロープの人気は根強くて、芝居や小説なんかが何度もリメイクされているんだとか。本人曰く「もはや原型を留めていない」とのこと。
 ギルドのお姉さまが小説を持っていたので、貸してもらって読んだのだが、主人公が美形の男装の麗人で、実は貴族のご令嬢という設定になっていた。

 で、なぜだかその特別講義に私まで参加させられている。
 ハウンド師匠からは勉強になるから話を聞いておけと云われ、王子からは将来的に役に立つからしっかり学べと云われ、ワイトさんからは「お前は隠密になるために産まれてきたんだ」と云われた。
 おじいちゃんにめちゃくちゃ褒められて、ついその気になりかけた。
 が、よくよく考えてみれば、私は子どもの神さまの娯楽で産まれたような存在だった。あやうく騙されるところであった。大人って怖い。

 講義は意外にも大盛況。
 それだけ冒険者パーティーにおける斥候職の重要性が高いということ。
 どうしても華やかな活躍が目立つ職に注目が集まりがちだか、依頼の成否は彼らにかかっていると言っても過言ではない。凄腕ともなると引く手数多にて、高額な報酬にてあちこちのパーティーを渡り歩いてる方もいるんだとか。
 だから参加者らの表情は真剣そのもの。まじめにワイトさんの話に耳を傾けている。
 気配の絶ち方、周囲の警戒の仕方、罠の見破り方、音を立てない歩法などなど、基本的なことから実用的なことまで、惜し気もなく伝授していく。
 ちょっとした秘伝並みの情報まで開示し、さすがに参加者らがどよめくシーンもあった。
 みなの前で実演までしてみせたのだが、やはりワイトさんの隠形の術は凄まじい。
 衆知にも関わらず気配が希薄になったと思ったら、その姿が檀上より掻き消えた。
 見事な技に会場中から拍手が沸き起こる。
 以前に鬼ごっこをした時には黒猫の着ぐるみ姿だったから、追跡可能であっただけで、少女体では無理。そりゃあ、厳重な城の警備網をすり抜けて、王子の執務室まで入り込まれるわけだ。

 さて、好評のうちに座学が終了したところで本日のメインイベント。
 都内各所に用意された幾つかの建物。そこから目的の品を隠形の術を駆使し、とってくるというオリエンテーリングが始まる。これは事前申し込みにて、腕に覚えのある者だけが参加する。
 それなのに何故だか参加者リストにヨーコの名前が……。
 部屋の隅ではイベントに合わせて、ちゃっかり成否や順番などを当てる賭けが始まっている。もちろんぶっちぎりの大穴はこの私。倍率がえげつないことになっている。

「主催者特権だ。お前なら出来る。わしは信じているぞ」とワイトさん。
 いや、さすがにこんな授業で変身とかしたらマズいし、小娘の体じゃ無理ですから期待されても困る。
 参加者は十二名。
 それぞれが箱からクジを引いて、記された番号の封書を受け取る。あとはその中に記された地図にある建物に赴き、潜入して目的の品を手に入れてくるという流れ。
 参加者が競うかのようにして出かけて行くのを尻目に、のんびり封書を開く。

「どれどれ場所はどこかいなっと……、あれ? ここって」

 テクテクと私が向かったのは馴染みの場所。
 表門より堂々と入り、そのまま院長室へ直行。
 もうお分かりであろう。私の引き当てた場所は寄宿舎学校。
 ラマンダさんに挨拶をして、来訪の目的を告げる。渡されたのはヘンな木彫りの人形。手の平サイズの出来損ないのコケシみたい。はっきりいって可愛くない。お土産でもらったら困るレベルの品だ。
 そいつを持ってギルドへと戻る。もちろん、ぶっちぎりで一番乗りだ。

「ところで、ワイトさんは私に賭けてたの?」

 訊ねたらツイと顔を逸らされた。
 信じてるっていったのに……。


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