神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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87 コウト国編 王都消失

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 ヤドカリ型のモンスター。
 アレが背中の殻に蓄えているのは爆発物。一定以上の攻撃を喰らうと自爆するんだ。そういう特質を持つことによって、他者から攻撃を受けないように進化した生物。爆発させることなく仕留めるには、脳天か心臓をひと突きにするしかない。
 通常は小型サイズ。爆発にしても間近で生身で喰らったら、ちょっと危ないぐらいの破壊力しかない。
 でもコウト国の王都にいた奴は小山ぐらいはあった。
 それが三体も。

 ダメージの回復を待ってから黒猫の着ぐるみフォームに変身して、地上を行く。
 上空にはまだ強風が渦巻いていたからである。
 爆風を受けたせいで森の中に、まともに残っている木はほとんどない。根元から引っこ抜かれたり、半ばで太い幹がへし折れていたり。建物の残骸などもたくさん転がっている。
 そんな場所を抜けた先にて、私は絶句した。

 何も……、何もない。

 ついさっきまで古都があったというのに、いまはもう何もないのだ。
 すべてが消し飛び、見渡す限りの荒野が広がっている。

「誰か! 誰かいないのっ!」

 いるはずなんてない。それでも叫ばずにはいられなかった。
 返事はない。自分の声だけが虚しく響き、びゅうびゅうと乾いた風が吹くばかり。
 しばらく歩き続けていると、うつ伏せに倒れている女の子の姿を発見した。
 慌てて駆け寄る。
 そっと抱き起こしたところで、少女の首がぼとりと地面に落ちた。
 私は恐怖のあまり、その場を逃げ出す。
 走って、走って、走って、そしてすっ転ぶ。
 変身を解いて、げえげえ吐いた。
 これまでだって、凄惨な現場には何度も立ち会っている。だから無残な死なんて、すっかり見慣れたつもりになっていた。子どもの神さまに改造手術を受けたので、精神耐性も上がっているはず。
 それでも心が悲鳴をあげた。
 これは違うと悲鳴をあげた。



 どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
 ペタンと地面に座り込んで、ずっとぼんやりとしていた。

「あれ? お姉ちゃん。なんでこんなところにいるの」

 振り返ると黒髪の男の子がいた。マンティだ。執事風の男性もつき従っている。
 死が満ちる荒野にて久しぶりに見た生命。
 だというのに私の中に沸いてきたのは、安堵よりも疑念。「なんでこんなところにいるの」と彼は言った。だがそれは私の方の台詞だ。

「マンティこそ、どうしてこんなところにいるの」

 かすかに震える声で、どうにか絞り出した質問。
 その答えは「どんな具合になったかを見に来た」という残酷なもの。
 どんな具合に、それは自分が行った事の結果を確かめにきたということ。
 なんとなくそんな予感はあった。でも私が一番聞きたくなかった言葉だ。
 実にあっけらかんとした調子で少年は話す。顔にはニコニコと無邪気な笑顔が張り付いており、一切の良心の呵責や罪悪感をも持ち合わせてはいないのは明白。
 それが堪らなく気持ち悪い。胃液がこみあげてくるのを堪えて、私は質問を重ねる。

「どうしてこんな真似をしたの」
「どうして? だってこんな国、無くなったほうがいいに決まっているからだよ。カビの生えた歴史に縋って、狭量で排他的で自尊心だけは高くて、異端を厭う。これってさぁ、ずっと昔の王様が特殊なチカラを持った相手に暗殺されかかったのに怒って、設けた制度が発端なんだよね。そんなものを後生大事に守って、僕の家族を死なせちゃうような連中なんて、石ころ程の価値もないさ」

 復讐か……、この前に会ったときに迫害を受けていたみたいな話をしていたけど、想像よりも遥かに酷い目にあってたんだね。
 でも、それでも、これはさすがにやり過ぎだよ。

「もしかしてキミもギガヘイルとかいう組織の一員なのかな?」
「そうだよ。あー、そういえば言ってなかったね。これでも僕、六柱の一人なんだ」

 もう限界だった。私は自身の内より溢れる殺気を抑えられそうにない。
 するとそれに反応したのか、執事風の男が二人の間に立ち塞がった。


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