84 / 153
84 コウト国編 スタンピートその1
しおりを挟むコウト国の街に立ち寄ってみたものの、すぐにゲンナリする。
和菓子っぽいお菓子とか、緑茶っぽい飲み物とか普通に美味しいし、見るべき物はたしかに多い。だがどこのお店に入っても、出てくるのがお国自慢。
ただの自慢話ぐらいならば、愛想笑いにて適当に受け流すのだが、これに他所を卑下する底意地の悪さが、もれなくオマケについてくる悪辣さ。
どうにも胸糞が悪くて居心地がよくない。
愛国心もここまでいくと害でしかないね。
宿で一泊したところで根をあげる。
早くも私はハムートが恋しい。最初に辿り着いたのがあそこで本当によかった。ここだったら、たぶん島に戻って引き篭ってるよ。
そろそろ退散しようと腰を上げたところで、警鐘がガンガンと鳴り響く。
途端に慌ただしくなる街の中。
何事かと思っていたら、こちらに向かって興奮したモンスターの群れが接近中とのこと。スタンピートとかいう現象らしい。
話には聞いていたが、実際に遭遇するのは初めてである。
さて、どうしたものかしらと考えていると、「冒険者及びギルド関係者らは、支部に集合せよ」という街頭放送がかかったので、とりあえずそちらに顔を出してみることにした。
ギルドのフロアには険悪な空気が漂っていた。
地元組と外様組が露骨にいがみ合っている。
あちこちへと遠出する機会の多い冒険者ですらが、この有様なのだから先が思いやられる。一枚岩で事に当たるのなんて、とても無理ではなかろうか? よほど巧いこと舵取りをしない、と勝てる戦も勝てないよ。
せめてギルドマスターが立派の人物ならば……。
なんていう私のささやかな期待は、早々に打ち砕かれた。
チョビ髭を生やしたギルドマスター。貴族然としており見た目は立派。どうやら地元の名士らしいのだが、チカラや能力でこの地位に昇り詰めたのではなくて、コネをフル活用したそうな。
親切にもすぐ隣にいた外様組のおっちゃんが教えてくれた。
いやはや参ったね。
人脈やコネも、ある種の才能だとは思うのだけれども、平時ならばともかく、緊急時にはたいそう心もとない。
どう差配をするのかと眺めていたら、呆れたことに「地元だけで十分だから、外様は適当に警備でもしておけ」なんてことを言いやがったよ。
おかげでギルド内の険悪さが最高潮。
怒った外様組は「自分たちは自分たちで勝手にさせてもらう」と出て行ってしまった。
貴重な戦力を一刀両断したギルドマスター。人間関係をここまでバッサリできるなんて、すごい切れ味だ。惜しむらくは活かす場が皆無ということ。
ギルドの見習い職員という立場上、私はしばらく隅っこで大人しくしていたのだが、一向に声がかからない。ちんまいから、すっかり忘れられているようだ。
こっちから受付に声をかけたら「しっしっ」と邪険に扱われた。
さすがにここまでされたら労働意欲も失われる。
私は変身はするがヒーローというわけではない。無性の愛と正義でみんなを救うほどの気概はない。
よって、しばらくは高みの見物としゃれこむことにした。
散々に偉そうなことをほざいんだから、まずはお手並み拝見といこうか。
地元組が連れだってギルドを出て行く。
大門にて街に常駐している警護の一団と合流して、スタンピートに当たるとのこと。だが外様組が抜けているので、数がいささか心もとない。
「本当に大丈夫なの?」
率直な不安を零したら、すぐ側でふんぞり返っていたチョビ髭マスターが、ふふんと鼻で笑った。
そして指差したのは、街の中央部に建つ鐘楼、天辺には緑色の珠が燦然としている。
「心配はいらん。アレがあるかぎりモンスターどもは街の結界を突破できん。そしてこちらの攻撃は透過するので、一方的に狩るばかりよ」
なるほど。アレがあるから、この傍若無人っぷりであったのか。
彼の自信満々な様子に、「へー」と感心していたのだが、途中でうん? となる。なんだか、どっかで聞いたような話だ。そう思って記憶を探ろうとした矢先に事件が起きた。
鐘楼の珠が突如として砕けたのである。
私は見た。
視界の片隅からもの凄い速さで飛来した棒状の何かが、緑色の珠を貫くところを。
0
お気に入りに追加
356
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
魔法少女の異世界刀匠生活
ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。
……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。
そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。
そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。
王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり……
色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。
詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。
※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。
※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる