83 / 153
83 コウト国編 黒髪の少年
しおりを挟むコウト国の山間にて巨大モンスターが目撃される。というギルドからの情報によって駆けつけてみたら、いた! トカゲのデカいのが。
表面がヌメヌメしている茶褐色の塊が蠢いている。電車三両分ぐらいもある体のわりに、目が小さくて円ら。サンショウウオっぽくて可愛い見た目ながらも、大きな口で手当たり次第に動くモノをパックンしちゃう迷惑な奴。
黒猫の着ぐるみがニョキと爪を出し、「にゃおーん」と襲いかかる。
戦いはほんの数分で終了。
サクっと殺っちゃって体内より、ラグビーボールぐらいの立派な魔石を取り出す。今回のは鮮やかな赤色をしている。
「これで八個めっと」
現在、私は魔石を集めるために各地を奔走している。
ジルス教国との戦争にて、白銀の魔甲騎兵とやりあって大破したイクロス王子の愛機。
これ幸いとばかりに新型機を開発しようと意気込む、工房長のおやっさん。
その建造のために必要なのが上質な魔石。おやっさんは白銀に勝つには現行の機種では不可能と判断し、新たな設計思想のもとで新型機を造ることにした。
これまで魔石は動力部分にのみ搭載されていたのだが、新型機では主な関節各所にも配置する。腕だけで肩、肘、手首、手の平、の四つ。こんな調子で全身を仕上げるというんだから、どうなることやら。
そんな理由で質のよい魔石が沢山必要。でも買うと超お高い。さすがに騎兵三十機分に相当する予算を請求されては、王子が首を縦に振るわけもなく、さりとておやっさんは妥協するタイプじゃない。
そこでお鉢が回ってきたのが私であった。
買えないならば、採ってくればくればいいじゃない。と考えて動き回っている、今日この頃。
巨大モンスターがわんさかいたあの島と違って、こっちだと大型の個体数が限られるから、あちこち足を運ばなければならないから大変。
魔石なんて島に戻れば住処にしていた洞穴にいっぱいあるんだけどねえ。
あの頃はアイテム収納機能のついたウエストポーチなんて持ってなかったから、全部、置いてくるしかなかったんだよ。
だからといって取りに行きたくない。
だってドラゴンの群れが鬱陶しいんだもの。あとスライム超怖い。
首尾よく目的の品も手に入った。そのまま引き上げても良かったのだが、ちょっと寄り道して近くの街に足を運ぶ。
コウト国方面に出向くと言ったときに、イクロス王子とハウンド師匠が、もの凄いしかめっ面をしたのが気になっていたのだ。
なんでもこの国ってば長い歴史を鼻にかけて、他所を見下しているらしく、とにかくムカツクらしい。表向きはニコニコしているけれども、内心では相手を小馬鹿にしている。古いことが優れていると考える風潮があり、排他的であり、異質な存在を嫌う傾向にある。
ギルドに出入りしている冒険者らにも尋ねてみたら、みな一様に顔をしかめるものだから、かえって興味をそそられた。
街の付近にて変身を解く。
少女体にてテクテク歩いていると、道の脇にて腰かけている黒髪の男の子を見つけた。パムーという小さな毛玉のモンスターと戯れている。あれってモフモフで可愛いのだが、ヒトにいっこうに懐かないというのに、なんて羨ましい……。私もモフりたい。
「パムーに触れるなんてすごいなー」
つい素直な感想を漏らすと、その声が耳に届いたらしく男の子が顔をあげた。
瞳を見開き、えらく驚いた表情をするので、かえってこっちが小首を傾げたぐらいである。
「すごい? そんな風に言われたの初めてだよ」
マンティという名前の男の子が言うには、この国ではモンスターと交わるなんて不浄なことと、忌み嫌われているそうな。おかげで彼は小さい頃から苦労していたという。
「へー、なんだか面倒臭い土地だとは聞いていたけど、そこまでなんだぁ」
「うん。おかげで僕の家族は村八分だよ」
「はぁ? 馬っ鹿じゃないの!」
ヒトとちょっと違う能力を持っただけで、家ごと迫害されていたという話を聞いて、私は憤慨した。彼が止めなければ勢いのままに、その村へ押しかけて暴れているところだ。
こんな調子で二人でしばらく話をしていると、執事風の男性が近寄ってきた。
マンティの連れらしく、どうやら所用にて側を離れていたみたい。
「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。あっ! そうだ。お姉ちゃんはそこの街に用事があるんだよね」
「用事っていうか、ちょっと立ち寄っただけだから」
「そう、だったら出来るだけ早く立ち去ったほうがいいよ」
「それはどういうこと?」
私の質問に少年が答えることはなかった。
ただニコニコと無邪気な笑みを浮かべるばかり。
はて? と小首を傾げつつ、私は遠ざかっていく二人の背中を見送った。
0
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる