神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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69 子連れ騎士

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 頼まれた配達を終えて、報告にと執務室へやってきたら王子は留守。
 そのくせ、なにやら騒然としている。
 見ればジンが可愛らしい赤ちゃんを抱いていた。
 その姿を見て私が発した第一声は「ついにヤリやがったな」である。
 嬰児誘拐略取、そして光源氏、そんな不穏な単語が次々の脳裏に浮かぶ。
 ガチのロリコンの変態野郎が、ついに自分の手で理想の幼女を育てるという禁断の道へと足を踏み入れてしまった。獣が本当の畜生道に堕ちてしまった。
 普段はクールでドライな事務員らも、ザワついている。さすがに身内から犯罪者が出ては落ち着いてはいられないか。

「違う! 誤解だ! 今朝、寮の自室を出ようとしたら、扉の前に籠が置いてあって、その中に入っていたんだ」

 ジンが懸命に無実を訴えている。日頃の行いのせいか、みなの視線は胡乱げ。
 私もジト目だ。六割方、疑惑が勝っている。しかしここまで声を大にして叫んでいる以上は、せめて彼の言葉に耳を傾けてやるのが知人としての情けであろう。

「それで籠の中には他に何か入ってなかったの?」
「ああ、それならこんな紙きれが」

 差し出されたのは、折りたたまれた一枚の紙。
 開けたら中には「ジンさまの子どもです。可愛がってあげて下さい」と書かれてあった。

「真っ黒じゃねえか! 私の同情を返せ!」

 怒りにまかせてポコポコ黒騎士のケツを私が蹴り上げていたら、そこにレプラが顔を出す。
 同僚の姿を見て、赤騎士、しばし絶句。

「おまえ……、さすがにそれはダメだろう。ああ、前からバカだバカだとは思っていたが、ここまで愚かであったとは。この騎士団の面汚しめが! そこになおれ。即刻、その首を叩き落としてくれるわ」

 興奮して剣の柄に手をかけるレプラ。
 私はそれを制止する。

「ダメだよ、レプラ。いくらなんでも可哀想すぎる」
「何故だ、ヨーコ。どうしてこんな『クズ』を庇うんだ?」
「別に『クズ』を庇いやしないよ。でもここで『クズ』を斬ったら、この子はどうなるの。こんな『クズ』でも赤ちゃんにとっては、かけがえのないお父さんなのに」
「あれ? どこぞより攫ってきたのではないのか」
「違うよ。正真正銘、ジンの隠し子だよ」
「なんだ……、驚かせるな。私はてっきり攫ったものだとばかり。普段の『クズ』っぷりを知っているから、つい早とちりしてしまったではないか」
「もう、レプラはそそっかしいんだから」
「あははは、いやー、悪かったな、ジン。それにしてもこれだけ騒いでもスヤスヤ寝ているだなんて、この神経の図太さは間違いなくお前に似たんだな」

 いまだに冤罪を訴え続けるジン。しかし最早、この執務室にて誰も彼の言葉に耳を傾けるものはいない。それどころか事務員らが相談して、財布を取りだし御祝儀の準備を始めていた。もちろん私もよろこんで包ませてもらうよ。
 なんだかんだで落ち着くところに落ち着きそうになった頃、イクロス王子が執務室に顔を出す。
 赤子を抱くジンの姿をちらりと見て、「ちゃんと認知しろよ」とだけ言った。
 いくら変態な部下でも、犯罪に手を染めるとは考えなかったようだ。なんだかんだで黒騎士のことを信頼しているんだな。そしてさり気に祝儀をはずむツンデレ王子。
 みんなの厚い心遣いに感動したのか、ジンは泣きながら執事室を飛び出していった。

 後日談を少々。
 結論から述べるとジンは冤罪だった。
 あの赤ちゃんの本当の父親は、彼の隣の部屋の騎士であった。飲み屋で知り合った女に見栄を張って、部隊長の名前をつい名乗ってしまったのが、今回の騒動の発端であったらしい。
 あの騒ぎの後、すぐに子どもを置き去りにした母親が罪悪感から出頭。その場にて先の事実が発覚し、父親の騎士が彼女に謝罪して正式にプロポーズ。これを女性が了承して、晴れて幸せ家族が誕生。
 いやはや日頃の行いは大切だな。
 しみじみそう思ったよ。私も気をつけなきゃね。


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