63 / 153
63 ジルス教国編 タキシムVS神造小娘
しおりを挟む「我はギガヘイルが六柱の一角を担うタキシム。冥途の土産に覚えておくがよい」
「私はヨーコ。ギルド職員見習い兼王子のパシリだ」
地下の大空洞にてイグアナ怪人と黒猫の着ぐるみが対峙する。
先に仕掛けてきたのはタキシム。
一瞬、その姿が薄闇に紛れたかと思ったら、すぐ側にいてハイキックを放つ。咄嗟に腕をあげて防ぐも、重い衝撃にて防御ごと振り抜かれて体を飛ばされた。
鞠のようにポンポンと転がる黒猫。
コイツ強い。いままでの連中とは違う。
これまで戦ってきた怪人とは桁違いの膂力。ガードした腕が少し痺れている。さすがはボスを気取るだけのことはある。
再び奴の姿が滲んで薄闇に紛れる。
しかしそれはさっきも見た。すでに手品の種はバレている。
私は自身の背後に向けて猫キックを放つ。
鈍い音が響く。感触はあったものの、当たりが浅い。どうやら咄嗟に身を引いて直撃をかわしたようだ。
「おのれ! やりおるわ」
闇の中からタキシムの悔しがる声が漏れてくる。
なんてことはない。カメレオンみたいに肌の色をかえて、消えたように見せかけていただけのこと。そんなちゃちな手品、この猫目は見逃さねぇぜ。
だが次に見せられた手品ならぬ能力には、私も度肝を抜かれる。
なにせ薄闇の中からヌゥと浮かびあがってきたのは、頭がぐらぐら揺れている黒猫の着ぐるみ、自分自身の姿であったのだから。
「えっ! 私?」
驚きのあまりちょっとぼんやりしてしまう。正面よりマジマジと己の姿を見せつけられて、あまりの間抜けな容姿に気を取られてしまった。
その隙に放たれた猫パンチをモロに顔面に喰らってしまう。
威力はまごうことなき猫パンチのソレであり、私の体はスーパーボールのように、ありえないほどポンポンと盛大に跳ねて、激しく岩壁へと叩きつけられてようやく止まる。
「あいたた……、嘘でしょう。どうして」
「くくくく、驚いたか? これこそが我がチカラ『擬態』よ」
得々とタキシムが語ってくれたところによると、擬態というのは相手の容姿のみならず、能力をも完璧にコピーするんだとか。なんというか、ずっこいチカラである。
使い方次第では最強になれそうな気がする。
でも私の頭の中には、元の世界でお父さんとともに視聴した、膨大な特撮ヒーローものの無駄知識が詰まっている。ゆえにすぐにタキシムのチカラが脅威となりえないという答えを導き出す。
確かに彼の擬態は強力だ。それは認める。
でもね、即席の真似だけでどうにかなるほど、武の世界は甘くないんだよ。
それを証明するかのように、起き上がった私が偽黒猫へと迫る。
再びこちらを殴り飛ばそうとのびてくる猫パンチ。
私はこれを正面からパシリと叩きのめし、ねじ伏せることにする。
にゃあにゃあと猫パンチの連打の応酬。拳と拳同士がぶつかり、ガツンガツンと音を立てる。互いに一歩も引かずに打ち合うことしばし。
そんな乱打戦の最中にあって、不意に敵の攻撃をすかした私は、これをショートアッパーによりかちあげ軌道を逸らす。すかさず踏み込み隙だらけの胴に腰の入ったレバーブローを放つ。
「ぐはっ」とタキシムを悶絶させた後に、さっきのお返しだとばかりに渾身の猫パンチを、偽黒猫の横っ面に叩き込んでやった。
今度はタキシムが扮する偽黒猫の着ぐるみが反対側の岩壁まで跳ね飛び、ぶつかる格好となる。
ちっ、巨大モンスターを倒すぐらいのチカラを込めたのに、この分だと防御力も本物そっくりみたいだな。戦いが長引いて相手に体の使い方を学習されたら、ちょっとヤバいかも。
「なっ、馬鹿な……」よろよろと立ち上がりつつ、そんな言葉を口にする彼に私は言ってやった。
「あんたは阿呆か? どんなに能力を真似したところで、積み上げてきた経験や訓練は別物だろうに。同じ体を使うんだったら、慣れてる元祖の方が圧倒的に有利じゃんか」
擬態はまるで自分の分身の相手をしているみたいで、混乱するかもしれないが、冷静に考えればこの一事に尽きるのだ。
こちとら毎日のように師匠にポンポンとやられている。にわか野郎にどうこうされるほど、ヌルイ生活を送ってきたわけじゃない。
ジャキンと猫爪を構えると、タキシムが扮する偽黒猫もまた同様な構えを見せた。
0
お気に入りに追加
356
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界に降り立った刀匠の孫─真打─
リゥル
ファンタジー
異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!
主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。
亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。
召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。
そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。
それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。
過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。
――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。
カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。
魔法少女の異世界刀匠生活
ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。
……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。
そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。
そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。
王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり……
色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。
詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。
※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。
※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる