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60 ジルス教国編 開戦
しおりを挟むハムート国及び近隣諸国による連合軍とジルス教国との戦争が、じきに始まる。
連中が裏で仕掛けていた陰謀が、うちでの騒動を発端として次々と明るみになり、忘れられし女神を信奉する集団の悪辣さに各国が激怒。ついに堪忍袋の緒が切れたからだ。
ジルス教国は周辺地域の中核を担うハムート国を皮切りにして、各地で順繰りに騒動を起こす計画を着々と進めていたのである。
だが初手から計画は頓挫。
こちらは当然のごとく正式に抗議をするも、返答は「宣戦布告」であった。
あまりにも手際のいい流れから察するに、理由は不明だが近いうちに大きな宗教戦争を起こすつもりであったようだと推察される。
うちからはイクロス王子が魔甲騎兵団を率いて参戦する。
まあ、彼は団長だし王子という立場上、当然であろうが今回はギルドからも参加が決定している。
王子らが華々しく魔甲騎兵を駆って野戦を行っている間に、ハウンドさんが選抜された手練れの冒険者らを率いて敵の根城を強襲。宗主の身柄を抑えた後に、敗北宣言をさせる予定。
なにせ信仰というのはやっかいな代物。
最悪、一兵卒にいたるまで自殺まがいの特攻とかしかねない。これを防ぐためには一番エライ人の存在がどうしても必要となる。そう首脳陣が判断したがゆえの二面作戦。
そして私は王子にくっついての参加、何かあったときの遊撃手として控えていることになっている。
街の復興で賑わう市井を尻目に、城では戦の準備が淡々と進む。
おやっさん率いる工房組が総力をあげて、魔甲騎兵を整備して仕上げていく。騎士たちも自分の機体の調整に余念がない。
冒険者ギルドでも水面下にて日に日に緊張が高まっているのを、ビリビリと肌で感じてはいたのだが、あいにくと私にはやることがない。
よっていつも通りに寝起きして訓練をこなし、たまにお使いをしたり、悪党をぶっ飛ばしたりしているうちに、時間は過ぎて行き、ついに開戦の日を迎える。
戦場となったのはジルス教国のお膝元にある見晴らしのいい平原。
場所は向こうからの指定であった。当初は罠かとも疑われたのだが、いくら調べても怪しい点はどこにも見つけられない。
あちらの思惑としては、ダラダラ行軍なんてしたくない。
こちらの思惑としても、自領内で戦なんてしたくない。
なんとなく各国との思惑とも合致して、そういうことになったんだけど、これって絶対に何か企んでいるよね?
この世界での戦争の主力は魔甲騎兵たち。
両陣営の二足歩行兵器がずらりと並んて対峙している姿は、圧巻の一言。
こちらは連合であるがゆえに、機体の色や装備もバラバラなのに対して、ジルス教国のモノはすべてが白を基調とした色で統一されている。
それは、まあ、いいのだが、問題はその白地の表面に教団の教えみたいなのが、びっしりと書き込まれてあること。まるで耳なし芳一みたいで、ちょっと怖い。
戦いの序盤は圧倒的に連合軍が優勢であった。
なにせ騎士たちは闘いのエキスパート、練度が違う。
勢いにまかせて突出する敵機があれば、これを盾にていなし、バランスを崩したところをすかさず周囲の仲間たちが強襲。運転席や動力あたりを、剣や槍にて突き刺して倒してしまう。一対一なんて酔狂な真似はしない。
なにせここは戦場なのだ。より冷静に、冷徹に、効率よく敵の数を減らしたほうが勝つ。
魔法による遠距離攻撃では補佐がつき、敵との距離、風向きなどを逐一射手に報せて、精度を格段に上げて放つものだから、着弾率が高い。
兵数の上では互角でも、中身がまるで違う。
ジンの黒銀の魔甲騎兵が敵機を撃破したら、まるで競い合っているかのようにレプラの赤い機体が手にした槍で、目の前の相手を黙らせる。
……強い。やはり二人の実力は周囲から突出している。
二人とも性癖は歪みまくっているのに、武の道は真っ直ぐだ。
「このまま楽勝かなぁ」
ボリボリ、もってきたお菓子を食べながら私がのんきに眺めていると、戦場に突如として異変が起こった。
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