神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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55 ジルス教国編 突撃

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 艇内に強引に押し入ったところで、黒猫の着ぐるみフォームにチェンジ。
 鉄板で覆われた無機質な廊下。むき出しのパイプや太いコードみたいなのが壁や天井沿いに伸びていて、ゴォウンゴォウンと低い唸り声のような音が絶えず響いている。シューっと蒸気なんぞも噴き出しており、とってもスチームパンクな雰囲気。
 ワラワラと現れた船員たちが、次々と怪人化していく。
 ゾンビ映画のように群がる連中を猫パンチでバッタバッタと薙ぎ倒し、ついでにそこいらの壁をぶち抜き、パイプとかを猫爪で切り裂く。
 蒸気が噴き出し、なかには断面からバチバチと火花や放電をしていた箇所もあったので、きっと飛空艇への嫌がらせにはなっているはず。
 アミット姫の姿を求めて彷徨ううちに、動力炉らしき場所にも到達。こちらもほどよく荒らしておいてやる。
 やたらと入り組んだ艇内、照明が薄暗くて陰気な通路、邪魔な怪人たち。そろそろこちらの我慢が限界に達しそうなところで、ようやく甲板へと通じる鉄扉を蹴破る。
 するとそこに探しヒトの姿を見つけた。
 使節団の団長である銀髪の男が、嫌がる姫さまの腕を掴んで無理矢理に引きずって、小型艇へと乗り込もうとしていたのである。

 咄嗟に壁際の鉄パイプを引っこ抜いた私は、槍投げの要領にてそれを小型艇の運転席らしき場所に投げつけてやった。
 轟音とともに爆発が起こり、大破する運転席。
 そちらに気を囚われている隙に、銀髪の男の背に飛び蹴りをかまし、お姫さまの身柄の奪取に成功する。

「姫さま、無事? どこも怪我してない?」

 突然のことに驚いているアミット姫。悪さはされてなかったようでコクンと頷く。
 その顔を見てちょっと安堵する。でものんびりとはしていられそうにもない。
 思いのほか飛空艇へのダメージが深刻だったらしく、あちこちで爆発音が鳴り響き、不穏な振動が足下からずっと伝わってきている。動力炉に猫爪でブスブス穴を開けたのは、さすがにマズかったかな。
 と、なにやら団長さんの様子がおかしい。
 ムクっと起き上がったのはともかくとして、首がへんな方向に曲がっているというのに、平気な顔をしているどころか、普通に話かけてくるんだもの。

「キサマ、なぜ邪魔をする? 博士の命令で潜伏していたのではないのか」

 博士? 潜伏? ちんぷんかんぷんだ。
 たしか名前をレムリンとかいったか、奴はなんのことを言っているのだろう。
 小首を傾げていると、盛大に舌打ちされて「出来損ないの類であったか」なんて言われちゃったよ。

「誰が出来損ないだ、失敬な!」

 ぷりぷり怒る私を放っておいて、銀髪男の体がむくむくと膨張を始め筋肉が盛り上がり、ついには服やローブを破り、中から異形が姿を現す。
 後頭部には大きな口があり、だらりと長い舌を垂らす。それだけでなく赤茶けた色の体のあちこちに大小の口が浮かび上がり、ケタケタと不気味な笑い声をあげていた。
 怪人の姿を見てアミット姫が悲鳴を上げる。
 私は彼女の視界を防ぐように、その前に立つ。

「大丈夫、あんなのすぐにやっつけちゃうから。ちょっと待っててね」

 猫目でウインクして安心させてから、尻尾を揺らしテクテクと怪人へ近寄っていく。

「この出来損ないの身の程知らずが! 死ねい」

 怪人が怒声をあげたかと思ったら、奴の体にある口から一斉に放射された音波攻撃が黒猫の着ぐるみを襲う。
 不可視にして防御不能の攻撃。数多のライバルどもを蹴散らし、彼を宗主の右腕と呼ばれる地位にまでに押し上げた必殺技。魔甲騎兵の外骨格すらも容易く粉砕するその威力ゆえに、己の勝利を確信するレムリン。
 だが黒猫の着ぐるみが歩みを止めることはなかった。
 何事もなかったかのように、平然と近づいてくるではないか。

「な、なぜ倒れない! そんなバカな」
「ギャアギャアうるさい。こんなヌルイ音波攻撃なんざ、ドラゴンどもの鳴き声に比べたら屁でもないわ」

 ドラゴンと比べられて思わず絶句し間抜け面を晒すレムリン。それも無理なきこと、なにせドラゴンといえば天空の覇者にして、飛空艇乗りの大敵。遭遇したら危険なのではない。遭遇したら終わりという認識のもとで、空を往く際にはつねに警戒を怠らないような存在なのだ。

 得意の音波攻撃が利かないことがわかったので、自慢の巨躯が誇る圧倒的膂力にてねじ伏せようとするレムリン。
 唸りをあげて振り下ろされる拳。
 その拳に黒猫の拳が正面から激突する。


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