神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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52 ジルス教国編 異形

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 都内に頻発する事件、その中で稀にだがヘンなのが出没していたのだ。
 念のためにと用心していたら、やっぱり出てきたよ。
 継ぎ接ぎだらけの大きな体は歪。肌は艶のない大理石のよう。出来の悪い彫像みたい。
 眺めていると頭が次第に膨らんで、ついにはメキメキと音を立ながら縦に割けてしまう。新芽が開くように分かれた真ん中には大きな目玉がひとつ。無機質っぽい体とは違って、ここだけが妙に生々しい。だけど白濁しており知性はまるで感じられない。それでいて周囲へと無差別に殺気を飛ばす。
 一言でいえば異質、モンスターとも違う、明らかにまともじゃない存在。
 そもそも変身する生き物っていないらしい。
 私たちはこれらをまとめて、『怪人』と呼んでいるが、そいつがこちらの姿を見つけるなり、襲いかかってきた。
 建物の屋根まで一気に届くほどの跳躍力。あきらかにヒトの領域から逸脱している動きとチカラ。その体から繰り出される剛拳を、身を捻ってかわした私は、カウンター気味に猫キックをお見舞いする。相手がヒトじゃないので遠慮はしない。

 パンっ! と肉の花火が弾ける。

 巨大モンスターをも一撃で葬る衝撃を受けて爆散する怪人。
 辺りに飛び散った肉片は、ジュワッと泡になって消えてしまう。あとには卵の腐ったようなにおいが残るのみ。
 弱くはない。さりとて強くもない。でも厄介な存在だとは思う。数が揃ったら脅威度が跳ねあがるタイプの敵だな。心臓を突き刺したり首を飛ばしたくらいじゃ、死にそうにないしね。

「私や師匠の敵じゃないけど、普通の冒険者とか騎士だと、ちょっと苦戦するかもね」

 怪人を葬った私は、寝たままの子を抱きかかえて、その場を後にした。



 寄宿舎学校に眠ったままの女の子を送り届けたら、ラマンダさんに感謝されて抱き締められた。まえからデカいデカいとは思っていたが、圧がもの凄い。私のマグロフォームの女体といい勝負であろう。

 子供も無事に戻ってやれやれとギルドに帰ったら、今度はイクロス王子からの呼び出し。
 てっきり倉庫を破壊したので、怒られるのかとビクビクしながら出頭したら、意外な任務を仰せつかる。

「ヨーコ、きみにはしばらくの間、アミットの警護を担当してもらう」

 お姫さまにはちゃんと専属の警護がついていたはずなのに、なんで? 
 小首を傾げていたら、念のための保険だと言われた。
 王子の説明によると、近々のうちにジルス教国から使節団が来訪するらしい。
 あそことウチとの関係はこれまでにも述べた通り。表向きは友好国を演じているが、内心ではまったく信じちゃいない。彼はそこで何かがあると警戒しているようだ。
 剣の達人であり魔甲騎兵団を預かるイクロス王子は強い。いざとなれば自分で自分の身ぐらい守れる。王様やその周辺も同じで守りは固め。そんな中にあって、もっとも隙がありそうなのがアミット姫となる。
 そこで行儀見習いとして、連中が引き上げるまで側にいるようにとのお達しであった。ハウンド師匠にもちゃんと話を通してあるという。

「それはいいんですけど、私、メイドの仕事なんて何もできませんよ」

 戦闘力はそこそこ、でも女子力は虫けら並み、それが神造小娘ヨーコなのである。

「ヨーコはアミットの側で話し相手になっているだけでいい。信頼のおける者らには事前に通達しておくから。邪魔にならない程度にゴロゴロしていてくれ」

 イクロス王子のところに出入りしている絡みで、たまにアミット姫に誘われてお茶なんかをご馳走になる間柄だから、お友達を守ることに異存はない。だから護衛任務を請け負ったんだけど……。

 事情を知っているハズの側仕えの熟女メイドは厳しかった。
 彼女は「それはそれ、これはこれ」と割り切れる大人の女。せっかくの機会だからと妙に乗り気。そのせいで私はビシビシしごかれている。みっちり礼儀作法からお茶の淹れ方まで、淑女の嗜みを徹底的に仕込まれている。
 話が違うと王子に抗議したら「給金が貰えて、タダで一流講師の指導を受けられる。よかったな」ですって。そして仕事はそのまま継続だ。
 少女体でもチカラはわりとあるので、モノを運んだり姿勢を維持するのは平気なのだが、細かい所作がまるで駄目。染みついた庶民根性は魂を改造されたぐらいでは抜けきれない。
 いかなるときにも指先一つにまで気を配るなんて、ハードルが高すぎるよ。
 貴族令嬢、半端ねぇ。

 姫さまは私の変身については何も知らない。
 知っているのは王子と師匠の他数名。御年十三才の彼女は、私のフクロウフォームの男性姿に淡い恋心を抱いており、ギルドに捜索依頼を出している。
 これが王子と関わるハメになった発端でもあるのだが、姫さまと親しくなるにつれて黙っているのが心苦しい、そう思う今日この頃。

 そうこうしているうちに、ついにジルス教国の使節団が来訪する日を迎える。


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