神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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51 ジルス教国編 忍び寄る騒乱

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 黒猫の着ぐるみが音もなく降り立つ。
 場所は都の某所にある大きな倉庫の屋根の上。
 侵入し屋根裏から室内の様子を伺ってみると、そこに集っていたのは怪しげなローブ姿の者たちが三十ほど。
 中央には台座が設置されており、大の字に寝かせられ手足を固定されている子どもの姿があった。行方不明の獣人の女の子だ。
 かつて神さまに改造手術を施された時の私とまるっきり同じ格好……。
 なるほど、客観的にみるとあんな風に見えるのか。
 ふむ、なかなかに猟奇的な光景である。

 寄宿舎学校の子どもが行方不明となって、院長のラマンダさんから捜索依頼を受けた冒険者ギルド。
 この都にて彼女の学園の生徒に手出す者はまずいない。
 元トップランカーである魔女の逆鱗に触れて、地獄の業火で焼かれるから。
 だというのに事件が起きた。これは犯人がそれだけバカということを意味している。そしてそんな輩だから、どんな暴挙に出るかわかったもんじゃない。ゆえに子どもの身を案じたラマンダさんは、関係各所に捜索と救出を働きかけた。
 彼女や子どもたちには日頃からお世話になっているので、もちろん私も協力する。

 黒猫の着ぐるみ姿にて都内を駆け回っているうちに、怪しげな集団を発見。
 なんとなく悪党っぽいと判断した私は後をつける。そしてここへと辿り着いたというわけさ。
 冴えわたる私の勘。どうみたって幼子をイケナイ儀式の犠牲にしようとしている光景に、思わず尻尾の黒毛もシャーッと逆立つ。そして弾ける猫パンチ。

「そこまでだ! 悪党ども」

 天井をぶち破り、屋根裏より姿を現した黒猫の着ぐるみ。
 なにか気の利いた台詞でも言おうとした矢先に、向こうから問答無用で斬りつけられる。
 ギラリと物騒な輝きを放つ剣の切っ先が、一斉に襲ってきた。
 これをクルクルと後方にバク宙にてかわす。
 着地と同時にドンと足にチカラを込めて一気に突撃。ボーリングのピンを倒すかのごとく、集団を弾け飛ばす猫の拳。
 勢いのままに台座まで駆け抜け、子どもの側にいく。
 薬でもかがされたのか、ぐったりとして意識を失っている女の子。
 猫爪にて素早く手足の拘束を解くと、私は彼女の体を抱えてひょいと天井まで跳ねる。太い梁に手をかけて、鉄棒の要領にてくるんとその上に飛び乗ると、さらに天井をぶち抜いて屋根にまで出る。そしてすぐに隣の建物の屋根へと移動しつつ、振り返ると容赦なく猫目ビームを発射した。
 発射しながら首を動かし、倉庫の主要な柱や壁をズタズタに切り裂いていく光線。
 その結果、倉庫は中の連中もろとも豪快に倒壊した。

 いや、この破壊行為ってイクロス王子やハウンドさんの指示でやってることだからね。

 ここのところ物騒な事件が都内にて頻発している。
 薬物に人身売買や盗品の流通など、反社会的組織の動きが活発化している。それを上層部が躍起になって、水際で食い止めているという感じ。
 それらを片っ端から摘発していくと、背後に見え隠れしているのが、彼の国。
 忘れられし女神とかいうのを信奉しているジルス教国。
 ハムート国に入信を迫り、宗教同盟への加盟を促す一方で、裏ではキナ臭い工作を行っては人心を惑わす。おおかた自作自演にて人々の危機感や不安をあおり、布教活動を加速させる狙いなのだろうが、仕掛けられるほうは堪ったもんじゃない。
 信仰って、押し付けるようなものじゃないよね? 大地に雨水が染みるがごとく、自然と浸透していくもんだと、私なんかは思うわけさ。

 なにより狂信者というのは、性質が悪い。
 捕虜になってもまるで協力しないし、拷問にかけたところで口を割るどころか、かえって自己陶酔しちゃって喜ぶ始末。「みてみて女神さま。僕、こんなに貴女のために頑張ってるよ」みたいな感じで。
 度が過ぎるMは気持ち悪い。
 それでジルス教国に文句をいっても「そんな連中は知らぬ。おおかた勝手に名乗っているだけであろう。貴国は我らを貶めるおつもりか!」と自分のしたことを棚にあげて、逆切れするばかり。
 埋まる地下牢。かさむ諸経費。苦労のわりに得られる情報は微々たるもの。連日の取り調べに尋問官のほうが根を上げ、二人ほど休職に追い込まれた。
 この事態を受けて、ついに王子が決断を下す。「問答無用、殺っちまいな」

 だから以前みたいに連絡しても引き取りに来てくれない。
 生で持って帰ったら露骨に嫌がられる。しんどい思いをして運んだというのに、目の前で首をスパスパやられちゃう。そして血で汚れた床の掃除を手伝わされる。
 平和の国の出身なので、この手のバイオレンスはどうかなあと思っていたのだが、まったくもって平気であった。おそらくは改造手術の際に、精神にもなにがしかの処理が施されたのであろうと信じたい。元からこうだったら、我ながらサイコパスが過ぎる。

 崩れた倉庫を前に、しばらく様子を伺っていると、瓦礫が派手に吹き飛んだ。

「あー、やっぱり出たかー」

 姿を現したヘンなのを見て、私はつぶやかずにはいられない。なんとなく予感がしてたんだけど、私ってば本当にハズレくじばかりよく当たる。
 イクロス王子によれば「ヨーコは引きが強い」らしいんだけど、あんまり嬉しくない。
 うにゃーん。


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