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47 湖の都ピタカ編 列車の屋根の上での戦い
しおりを挟む寒くもないのにコートを羽織り、襟首をたて、ハンチング帽を目深にかぶって顔を隠している。
不審者を絵に書いたような格好。
そんな男が客車から貨物車両の方へと向かっていく。
怪しい……。
こっそりと後をつけて様子を伺っていると、懐よりガサゴソと取り出した何かを置いては、次の車両へと移動していく。
何を置いているのかなあ、と見てみたら二つ並んだ筒状のモノに時計のタイマーっぽいのがついた品。私の目には、チ、チ、チ、と鳴ってドッカーンとしちゃうモノにしか見えない。
とりあえず危なそうなので車窓から、ぽいっと捨てておく。
男が置く、私が捨てる、を繰り返す。
最後尾まで行ったところで男が引き返してきたので、慌てて天井に忍者のように張りつき、これをかわす。
一番後ろの車両にもきっちりと同じ品が置かれてあったので、手にとり窓から捨てようとしたところで、いきなり男が戻って来て鉢合わせしてしまった。
「キサマか、せっかく置いたモノをどこかにやっていたのは!」
かなりご立腹な不審者。そんな彼の目の前で窓から手にしていた品を、えいやと投げ捨てる。そうしたらコートの男がキレた。
「おのれ! もはやガキだとて勘弁ならぬ。こうなれば爆破なんぞという、まわりくどい真似は止めだ。オレさま自ら乗客どもを皆殺しにして、列車を乗っ取ってやるわ」
自分からテロリストであることを公言した男がコートを脱ぐ。
全身がボコボコと波打ち盛り上がると服を破って、ヌメヌメとした茶色の姿が現れ、ヤモリみたいな怪人へと変っていく。
顔中に小さな円らな目がびっしりとあって気持ち悪い。
すかさず私も右手を天へとかざして叫ぶ。
「変身!」
足下からあふれ出た影が私を呑み込み球体となる。内部にて再構築される体。そしてパチンと黒い玉が弾けて黒猫の着ぐるみ姿が出現する。
その姿を見たヤモリ怪人に「なんと珍妙な!」と言われ、私は少し傷ついた。だから猫パンチをお見舞いしてやろうと突っ込んだら、するりとかわされ、奴は手足をぺたぺたと張りつけながら、窓から外へ出て、列車の上へと素早く移動する。
すかさず私も窓の縁に手をかけ逆上がりの要領にて、くるんと列車の屋根へとあがり追いかけた。
高速で移動する魔導列車の屋根の上は、風が強く車体も揺れるのでとっても不安定。
だというのに怪人はまるで平気な様子。たいしてこちらはへっぴり腰にて、小刻みに膝が震え、産まれたての小馬ちゃん状態。
不覚、どうやら奴の狙いはこれであったらしい。
「くくくく、さぁて、いつまで耐えられるかな」
その言葉を皮切りに、ヤモリ怪人が指先より半透明な液体を次々と射出。
咄嗟に避けるも列車の屋根の上では限界がある。やがて足下にてべちゃと潰れていたソレをうっかり踏んでしまったら、途端にステンと転んで危うく落ちかけた。
「これって、もしかしてグリス?」
グリスとは機械とかの潤滑に使う油のクリームみたいなもの。
ヌルヌルにて踏ん張りがほとんど効かない。一面に撒かれたソレによって、ただでさえ不安定な屋根の上が、一層の危険地帯となってしまった。しかも可燃性だから火でも放たれたら、たちまち列車が火だるま超特急になってしまう。
もしもそのまま駅に突っ込んだら大惨事だ。
このままでは危ない! でもどうしたらいいの? えーと、滑るから困る。ならば滑らなければいいのだから……。おっと、ピコンと閃いた。冴えわたる私の灰色の脳細胞。導き出された答えはコレだ。
ジャキンと足から猫爪を出し、体をがっちり支える。
これで即席スパイクの完成。足下さえ固まってしまえば、もう怖くない。
走る列車の屋根の上なんぞ関係ないとばかりに、勢いよく駆けだした黒猫の着ぐるみ。
急に動きがよくなったこちらに戸惑い、反応が遅れたヤモリ怪人。
その僅かな差が勝敗を分けた。
駆け抜けざまに真一文字に振られた居合のごとき猫爪の一閃。
これを受けて命を狩られるヤモリ怪人。
「ギガ……ヘイルに……栄光……あ、れ」
ぐらりと体が傾いで、列車の屋根から転げ落ちていった。
「ふぅ、なんとか無事に倒せた。あとは屋根の上のグリスをなんとかしないとね。なにかの拍子で引火でもしたら、目も当てられないよ」
マグロフォームに変じ、指先より高圧ジェットにて洗浄してから、車内へと戻る。
こうして私は魔導列車爆破事件を未然に防いだのであった。
ところでギガヘイルって何?
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