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41 怪人
しおりを挟むイクロス王子のパシリ業務に携わっていると、たまに襲撃を受ける。
背景に政治的な何かがあるのか、それともプライベートな秘密が潜んでいるのかは知らないが、王子の日頃の行いが悪いせいで迷惑この上ない話だ。
しかも襲ってくるのは盗賊レベルじゃなくて、明らかに玄人集団である。
全身黒づくめ、覆面または仮面着用、武器は標準装備、あと殺る気満々、そんな連中に追いかけられる黒猫の着ぐるみ。
こんな光景がすっかり慣れっこになりつつあった頃。
襲撃者の中にヘンなのが現れた。
肉球掌底を喰らってのびていた一人が、ゆらりと立ち上がったと思ったら、その体がみるみる膨らんで別の姿へと変化していく。
「へー、ここに来てからいろんなヒトたちを見てきたけど、こういう種族もいるんだ。さすがは剣と魔法とモンスターだらけのファンタジー世界」
などと考えているうちに変化が終わった。
大きな蚕っぽいのにムキムキの手足が生えている。
見た目は幼虫っぽいから、まだ子供なのかな? 成長したら羽化するとか。でもこの様子だとキレイな蝶じゃなくって蛾の類だな。
そいつが口からシュルシュルと糸を吐き出して、飛ばしてくる。
粘着性のある糸らしくて絡まると面倒なので、猫目ビームでジュバッと胴体ごと薙ぎ払う。さすがにコレは捕獲が無理そうだったので。
自衛の際はやむなしと、ちゃんと許可は得ている。
二つに分かれた体は、しゅわしゅわ泡となって消えてしまった。
別の日には岩石人間みたいになる奴も現れたし、また別の日には柳みたいな木人になったのもいた。狂暴化するので手に負えずに倒すと、みんな同じようにしゅわっと消えた。
なんとも多様な生態系であると感心していたのだが、それが勘違いであると知ったのは、イクロス王子とハウンド師匠と三人でお茶をしていた時のこと。
「あー、そういえば私みたいに変身する種族もいるんですねえ」
ぽろりと零した私の言葉に二人の目が点となる。
「そんな種族はいないぞ。少なくとも私はヨーコの素性を探る際に、過去の資料にまでさかのぼって調べさせたからな」と王子。
「体の一部が変化するのならばともかく、丸ごと別物になるなんて話、オレも聞いた事がない」と師匠。
あれれ、だったらあの連中は何なの? ばっちり別物に変身というか変態していたけれども。
「その話、ちょっと詳しく聞かせろ」
急に王子の顔が真剣になった。師匠も難しい顔をしている。
だからこれまで遭遇したことを話したら、イクロス王子に顔面を鷲掴みにされて「そういう事はちゃんと報告しろ」と説教をされた。
イダダダダ……、彼ってば剣の達人だからイケメン細身のくせに握力がかなり強い。
「それにしても何者であろうか」
じゃれる私たちをよそに、ぼそりとつぶやく師匠。
二人にわからないことが、異世界渡りの私にわかるはずもない。
「死んだら泡となって消えるから検証もできん。もしかしてソレが狙いか?」
ぺいっと手の中の幼女を放り出す王子。
頭のいい彼のことだから、何か思いついたのかもしれない。
「何にせよ、イヤな予感がするな。用心するにこしたことはあるまい」
「そうですね。ギルドの方でも情報を集めてみます」
大人たちが話をまとめている間、私はソファーでぐったり。
こんな会合があってから、都内にてちょろちょろと変態する存在が現れるようになっていく。
私らはそれらを『怪人』と呼ぶことにした。
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