神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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36 二人の騎士その2

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 美形の騎士から愛の告白をされる。
 乙女ならば誰もが一度は夢見そうなシチュエーション。
 突然の出来事にザワつく女性陣。
 ただし、それはこのロマンチックな展開に対しての反応ではない。
 恭しく手を差し出した相手が幼女、つまり私であったからである。
 べつに年の差婚を否定するつもりはない。でもそれは両者がある程度、大人になってからのこと。いい歳をした大人が小さな女の子に手を出す。世間ではそれをロリコンと云う。
 ジンと名乗った男性騎士は、ノータッチの愛でる系ではなくて、ガチ系であった。
 まあ百歩譲って、性癖については目を瞑ろう。
 だがそのガチなロリコンが、どうして私に食指を動かす? 私は決して美少女の類ではない。それこそゲーム、小説、アニメ、あらゆるメディアにて準モブと称される脇役顔。ヒロイン属性は皆無。一緒にいる女子学生らの方がよっぽど華があり可愛らしい。
 だから分不相応につき、やんわりとお断りをする。
 だというのに、この男は……。

「それは違うぞ! 貴女は自分の魅力に気がついていないだけだ」

 騎士いわく、「隣の人妻、やつれた主婦、熟れた未亡人、あるいはどこにでもいる普通の女性なのに実は……、という日常に潜む官能こそが素敵なんだ。自分はそんなありふれた存在こそを愛してやまない」らしい。
 どうやら彼は素人モノに興奮するタイプのようだ。きっと根が正直で素直なヒトなのだろうが、だからとて人前で自分の性癖を声高に晒すのはどうかと思う。
 おかげでその場にいた女子学生のみならず、周囲にいた全員がドン引き。

 身の危険を感じた私は、一歩身を引こうとする。
 しかし腕をさっと掴まれてしまった。根腐れしていても騎士は騎士、反応が早い。これでは逃げられない。
 というかリアル変態、マジで怖い。
 そう思ったときには、すでに足が出ていた。振り抜いた右のハイキックが見事に変態騎士の側頭部を直撃。幼女のパンチラに目を奪われていた男は、モロに攻撃を喰らって卒倒する。だというのにすかさず起き上がった。

「いい蹴りだ。ますます気に入ったよ」

 ロリコンだけでなく、M属性までをも併せ持つ騎士。
 かつてない強敵を前に苦境に立たされる私。これは貞操の危機だ。
 ジリジリと迫る変態、それから逃れようとする黒髪の幼女。
 互いに睨み合い、静かな攻防が続く。
 固唾を呑んで見守る周囲の人々。
 そんな私のピンチに颯爽と現れたのは、あの凛々しい女性騎士である。

「キサマは何をやっておるのか!」

 雷鳴のごとき叱責、続いてごうんと鈍い音が鳴る。鞘に収まった剣にてレプラがジンの後頭部をぶん殴ったのだ。これにはさしもの変態も頭を抱えて悶絶す。その隙にレプラさんが私の身柄を確保。

 ふぅ、危ういところであった。
 彼女にお礼を述べる。
 なのに今度は彼女が私の体をがっしりと抱いたまま、放してくれない。
 あれ?

「何をするレプラ、人の恋路を邪魔するとは無粋な」
「それはこちらの台詞だ。先に目をつけていた私の妹候補に、ちょっかいを出すのはやめてもらおうか」

 ジンとレプラの二人がギャアギャアと言い争いを始めた。
 あと何だか聞きなれない単語が飛び出したような。
 えーと、『妹候補』って何?

「ああ、それは私が囲いたい小さな女の子のことさ。キミみたいにね」

 ぱちんとウインクをして見せる麗しの女騎士。
 とどのつまり彼女もまたコイツと同類であったのだ。とりあえず百合系シスコンとでも分類しておくとしよう。私に目をつけた理由は、変態野郎とどっこいどっこい。彼女もまた日常にエロスを感じるタイプのようである。
 二人の変態が私を巡って争っている。
 虎口を逃れた先には、新たな虎口があーんと大口を広げて待ち構えていた。
 思わず周囲の大人たちに助けを求めるも、全員に顔を背けられた。連れの女子学生たちからは手を合わされて「ごめん、無理」ってされちゃったよ。

 どうなる私? どうする私?

 そんな時、会場内にてまもなく摸擬戦イベントの開始されることを告げる放送が流れる。
 これを耳にした二人の変態が、「よし! ならば摸擬戦で決着をつけよう」「望むところだ。勝った方が彼女の愛をえる。それでいいな」なんぞと勝手に盛り上がって、摸擬戦が行われる場所へと向かっていった。
 もちろん私がそんな阿呆どもの争いに付き合うわけもなく、連れの女の子たちに断りを入れて、早々に会場を後にしたのは言うまでもない。
 うにゃーん。こんなモテ期は嫌だー!


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