神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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33 ギルドの新人研修 後編

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 こっそりと野営地から抜け出す男女五人組。
 若さが勇気と無謀をはき違えて、彼らを夜の冒険へと誘う。
 その姿を暗闇に潜んで見つめている指導員のおっさんと私。
 毎回、似たようなことがあるんだって。事前に知らされていたので警戒していたら、案の定というわけさ。私はあの危なっかしい連中を見張るために後についていき、おっさんは引き続き野営地の監視を行う。何かあったら笛を吹いて報せる手筈になっている。
 通信用の魔導具でもいいのだが、森の奥とかだと何かの拍子に連絡が途絶することが稀に起こるらしいので、あえて原始的な手段を用いることに相談の上で決めた。

 先行する五人組は、うしろからついてくる私にはまるで気がつかない。
 五人のうちの一人が少し進むごとに、小枝をポキリと折って道しるべを残しているので尾行は簡単だった。なんだかんだでキチンと訓練を積んでいるから、冒険の基本は抑えているんだよねえ。
 だからとて特に目的もなく夜の森を徘徊していれば、どうなるのかというと‥‥…。

 あちゃー、よりにもよってヤミウマに遭遇しちゃったよ。
 ヤミウマとはモンスターの通称。やたらと長い正式名称があるのだが、みんな面倒なのでこう呼んでいる。
 容姿は大きなウマだ。丸太が沢山のったソリとかを引きずるような奴。体が真っ黒で夜陰に紛れるのだが、なによりも特徴的なのが頭部。
 首から上には何もない。本来あるはずの馬面がないのだ。そこだけちょん切ったかのようになっている。夜の森にて、長い首がゆらゆらとしている姿はなかなかに不気味。前足をあげてヒヒンと立ち上がると魔甲騎兵ぐらいもの高さになるから、正面から見るとかなりの迫力。そしてウマの体ゆえに四肢は強靭で移動速度も速い。
 よって逃げられない。新人五人組にはかなり厳しいお相手。
 彼らだけでは無理だと判断した私は、即座に笛を鳴らした。

 夜の森に響き渡る甲高い笛の音。
 その場にいた全員の注意がこちらに集まる。

「ほら! ぼやぼやしてないで散開しろ。一か所に固まっていたら、まとめて跳ね飛ばされるぞ」

 私の声に、ハッとした五人組が慌てて散開するように動く。
 ヤミウマは突進力が武器なので、こうすることで的を絞らせない。またメンバー同士がお互いの位置とモンスターの動きを確認することで、追い詰められないように牽制したり指示し合うことも可能となるのだ。
 この度の研修において、私は師匠より変身を禁じられている。
 修行のおかげで少女の体でも、そこそこは闘えるようにはなったが、あくまでそこそこ。だから調子に乗らずに救援が駆けつけてくれるまで、のらりくらりと逃げに徹する。
 だというのに五人組の一人の男子が、焦って攻撃に転じようとした。しかも馬鹿正直に真正面に立って。放った炎の魔法は見事に命中するが、たいして利いちゃいない。勢いよく突っ込んで来るヤミウマの体は止まらない。
 見かねた私がドロップキックにて彼の体を蹴り飛ばさなかったら、蹄の餌食になっていたよ。
 ちょうどそのタイミングで指導員のおっさんが率いる一団の気配が、向こうから近寄ってくるのがわかったので、「敵はヤミウマ」と叫んで報せておく。
 これでなんらかの対策を立ててくれるだろう。

 その後も疲れて足を止めてしまった子の尻を蹴飛ばして逃がしつつ、なんとかヤミウマの猛攻をかわし続けることしばし。

「またせたな」

 登場したおっさんの手には、鉤爪のついたロープがあった。
 ロープを器用に投げては脚に絡め、その動きを鈍らせる。そして完全に動きが止まったところで、周囲から殺到する新人らの魔法攻撃をもろに受けて、さしものヤミウマもバタンと横倒しとなった。すかさず胸の心臓部へ槍を突き入れるおっさん。これで勝負あり。

 勝手に野営地を抜け出して、みんなに迷惑をかけた五人組は、おっさんからキツメの拳骨をゴチンともらっていた。でもあまりクドクドと説教なんかはしない。
 それどころか「知ってるか? ああやって抜け出す奴らのうちの何人かが、後にトップランカーと呼ばれるようになるんだよ」とこっそり裏で笑みを浮かべていた。
 どうやらあれぐらい腕白でないと、上には登れないみたい。
 ハウンドさんを見ていると上がったら上がったで、いろいろと大変そうだし、私はいいかなぁ。冒険者って大変そうだし。

 そんな感想をもって冒険者ギルドの新人研修は、誰一人欠けることなく無事に終了した。


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