神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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31 ウエストポーチ

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「ねえ、王子。ぶっちゃけ私ってば囮に使われてるの?」
「なんだ、いまごろ気がついたのか。そうだぞ、おかげで釣れる釣れる。もう地下牢が満杯で、尋問室も連日大盛況だ」

 疑惑をぶつけたらアッサリと白状された。
 実力はともかく見た目は十才の幼女を、平然と危険にさらす鬼畜王子。
 酷い!
 文句を言ったら「そんな頑張ってくれているヨーコに、私からご褒美をやろう」と革製のウエストポーチをくれた。
 子供の腰にもちょこんと納まるいい塩梅の大きさ。薄茶色の落ち着いた風合いと銀の金具がマッチしている。しかも念願のアイテム収納機能付き。用量はあまり大きくないが、それでも荷車一台分ぐらいは入るとのこと。 
 やったね、私はついに念願のファンタジー標準装備を手に入れた。

 もらったポーチを早速身に着けて、ルンルン気分で冒険者ギルドに戻る。
 上機嫌にて師匠のハウンドさんに見せたら、何故だかものすごく気の毒そうな顔をされてしまった。

「気づいてないようだから教えてやるが、それを渡したってことは『より一層こき使う』宣言にも等しいことだぞ」

 師匠に言われて遅まきながら、ようやく私もイクロス王子の思惑に気がつく。
 ウエストポーチというアイテムを手にしたことにより、我が宅急便は運送量の上限が大幅に増えた。おかげでこれまでとは比較にならないほど、いろんな物が運べちゃう。ますます重宝がられてこき使われる未来が、すぐそこに……。
 しかもこのポーチってば、もの凄くお高いんですってよ。
 アイテム収納機能付きの魔導具は一番安くても、小さなお宅が買えちゃうほど。
 現在、私のお腰についているのは時間遅延効果も付随されているので、サイズのわりにはかなりいい品。庭付き一戸建てに美人メイドさんが二人ぐらい雇えてしまう金額なんだとか。
 そんなモノを考えなしに受け取ってしまった私は、前払いにて高額報酬を受け取ったということになる。

「返品はきくでしょうか?」
「無理だ、諦めろ」

 にべもない師匠、異世界にはクーリングオフ制度は存在しない。
 彼が王子を少し苦手としている理由が、私にも朧気ながら理解できた。
 うにゃーん。

「まぁ、ちょうどよかったのかもしれん」
「?」
「ヨーコには今度のひよっこどもの研修に参加してもらう。名目は指導員の補佐ということにしてある。お前もここでの生活にすっかり馴染んだことだし、そろそろ普通の冒険者というのを見知っておいても、いい頃合いだろう」

 冒険者ギルドは、半官半民のような立ち位置にて冒険者を統括する組織。顧客の要望を叶えるための人材を派遣するのが主な業務。
 冒険者の仕事は採集、狩猟、警護、戦闘、探索などなど多岐に渡る。
 何も闘うだけが冒険ではない。知識を武器にする学者もいれば、地図を作製する者もいるし、剣一本で道を切り開く者もいる。己が得意分野を極めた者がトップランカーとして名を馳せることとなる。
 で、この冒険者なのだがギルドにてキチンと講習を受けて訓練を積み、試験に合格しないとなれない免許制。書類を提出したら誰でもすぐに冒険者というわけじゃない。
 ずっと昔にはそんな時代もあったというが、犯罪者まがいの連中が紛れ込んだり、新人の死亡率があまりにも高すぎて、さすがに看過できなくなり現行の制度になった。
 なお私の所持している身分証は、ギルドマスターの権限にて発行される臨時のモノ、立場は見習い職員にて、なにか問題があったら責任はすべてハウンド師匠に向かうらしい。いずれはキチンとしたモノをと師匠は考えているようだが、目下のところ修行に小間使いに王子のパシリにと忙しくて余裕がないから、当分は先のこととなりそうだ。


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