31 / 153
31 ウエストポーチ
しおりを挟む「ねえ、王子。ぶっちゃけ私ってば囮に使われてるの?」
「なんだ、いまごろ気がついたのか。そうだぞ、おかげで釣れる釣れる。もう地下牢が満杯で、尋問室も連日大盛況だ」
疑惑をぶつけたらアッサリと白状された。
実力はともかく見た目は十才の幼女を、平然と危険にさらす鬼畜王子。
酷い!
文句を言ったら「そんな頑張ってくれているヨーコに、私からご褒美をやろう」と革製のウエストポーチをくれた。
子供の腰にもちょこんと納まるいい塩梅の大きさ。薄茶色の落ち着いた風合いと銀の金具がマッチしている。しかも念願のアイテム収納機能付き。用量はあまり大きくないが、それでも荷車一台分ぐらいは入るとのこと。
やったね、私はついに念願のファンタジー標準装備を手に入れた。
もらったポーチを早速身に着けて、ルンルン気分で冒険者ギルドに戻る。
上機嫌にて師匠のハウンドさんに見せたら、何故だかものすごく気の毒そうな顔をされてしまった。
「気づいてないようだから教えてやるが、それを渡したってことは『より一層こき使う』宣言にも等しいことだぞ」
師匠に言われて遅まきながら、ようやく私もイクロス王子の思惑に気がつく。
ウエストポーチというアイテムを手にしたことにより、我が宅急便は運送量の上限が大幅に増えた。おかげでこれまでとは比較にならないほど、いろんな物が運べちゃう。ますます重宝がられてこき使われる未来が、すぐそこに……。
しかもこのポーチってば、もの凄くお高いんですってよ。
アイテム収納機能付きの魔導具は一番安くても、小さなお宅が買えちゃうほど。
現在、私のお腰についているのは時間遅延効果も付随されているので、サイズのわりにはかなりいい品。庭付き一戸建てに美人メイドさんが二人ぐらい雇えてしまう金額なんだとか。
そんなモノを考えなしに受け取ってしまった私は、前払いにて高額報酬を受け取ったということになる。
「返品はきくでしょうか?」
「無理だ、諦めろ」
にべもない師匠、異世界にはクーリングオフ制度は存在しない。
彼が王子を少し苦手としている理由が、私にも朧気ながら理解できた。
うにゃーん。
「まぁ、ちょうどよかったのかもしれん」
「?」
「ヨーコには今度のひよっこどもの研修に参加してもらう。名目は指導員の補佐ということにしてある。お前もここでの生活にすっかり馴染んだことだし、そろそろ普通の冒険者というのを見知っておいても、いい頃合いだろう」
冒険者ギルドは、半官半民のような立ち位置にて冒険者を統括する組織。顧客の要望を叶えるための人材を派遣するのが主な業務。
冒険者の仕事は採集、狩猟、警護、戦闘、探索などなど多岐に渡る。
何も闘うだけが冒険ではない。知識を武器にする学者もいれば、地図を作製する者もいるし、剣一本で道を切り開く者もいる。己が得意分野を極めた者がトップランカーとして名を馳せることとなる。
で、この冒険者なのだがギルドにてキチンと講習を受けて訓練を積み、試験に合格しないとなれない免許制。書類を提出したら誰でもすぐに冒険者というわけじゃない。
ずっと昔にはそんな時代もあったというが、犯罪者まがいの連中が紛れ込んだり、新人の死亡率があまりにも高すぎて、さすがに看過できなくなり現行の制度になった。
なお私の所持している身分証は、ギルドマスターの権限にて発行される臨時のモノ、立場は見習い職員にて、なにか問題があったら責任はすべてハウンド師匠に向かうらしい。いずれはキチンとしたモノをと師匠は考えているようだが、目下のところ修行に小間使いに王子のパシリにと忙しくて余裕がないから、当分は先のこととなりそうだ。
0
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる