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26 キラキラ兄
しおりを挟む見た目が子供である私は、夜更かしを師匠に禁止されている。
が、たまに許可を貰って都の外へと出かけることもある。
主にモンスターを狩るために。対人戦ばかりをこなしていると、こんどは対モンスター戦の感覚が疎かになってしまうからだ。
危険度は圧倒的にモンスター戦なのだが、こればっかりだと全体的に戦い方が大雑把になってしまう。とはいえ対人戦ばかりでも繊細になり過ぎて、小さくまとまってしまう。
モンスター戦に偏り気味な私の場合、油断しているとすぐにバランスが崩れてしまうのだ。
だからこうして黒猫の着ぐるみフォームにて夜の森を徘徊する。
都の周辺はヒトの領域に近いのであまり凶悪なのはいない。サイズは大きくても中型種がせいぜい。あの島にいたような特大モンスターはまず出没しない。
あとデカいスライムみたなのも大陸に渡ってから一度も見ていない。もしかしたらあの島だけの固有種なのかも。
適当に狩りをしてから城壁をシュタタと垂直走りにて乗り越え、屋根から屋根を伝ってギルドの屋上へと戻る。
フクロウ宅急便や夜間訓練の際には、ここから出入りすることになっている。
馬鹿正直に少女の姿で大門から出入りしていたら、そのたびに心配性の衛兵のおっさんに呼び止められて大変だからだ。かといって変身した姿だと悪目立ちする。
よって師匠と相談の上で、こうすることに決めた。
帰還の報告に執務室を訪れたら来客中であった。
やたらとキラキラした生き物が応接セットのソファーに腰かけて、優雅にお茶を飲んでいる。なんだかキラキラ具合に見覚えがあるなぁ、と小首を傾げていたら、この前に助けたケモ耳お姫さまのお兄さんだと師匠から紹介された。
つまりこの国の王子さまだな。
金髪碧眼のイケメンだ。でもこっちにはケモ耳がない。
異母兄妹なんだとさ。へぇー。
「やあ、きみがヨーコ君だね。私はイクロス・ハム―ト、よろしく。ところできみがうちの妹を助けてくれたんだよね?」
キレイな碧眼にて、じっとこちらを見つめる王子。
猫撫で声にて、いきなり確信を突かれた私はうろたえて、思わず師匠をガン見する。てっきりハウンドさんがバラしたのかと思ったからだ。でもそれは早とちり。
恐るべきことにこの王子さま、巷の諸々の情報の断片から、自力にてこの結論に達したという。
追及されたギルドマスターは、誤魔化せないと判断して早々に降参したらしい。
どうやらハウンドさんはイクロス王子が少し苦手なようだ。
「まずハウンドが弟子をとった時期と謎の人物の出現時期が重なる。弟子入りの過程には、あのラマンダも絡んでいるというし、伝説の冒険者らが二人も関わっている時点で尋常ではない。あとはフクロウ頭がたびたびギルド上空で目撃されている点。そしてギルド預かりとなっている謎の少女。これだけ色々と揃っていたら普通は疑う」
にこやかなイケメンスマイルによる挨拶から一転して、淡々とした口調にて話す王子さま。たぶんこっちが彼の素なのだろう。
指折数えて丁寧に説明されたら、至極ごもっともな内容であった。
確かに疑惑のオンパレードである。
それにしても油断していた。フクロウフォームで飛びまわっている姿が、しっかりと目撃されていたとは……。
王子の話では城壁やら六つの尖塔にて、常時監視の目が光っているんだとか。
どこからモンスターがやってくるのかわからない、こんな世界だから当然といえば当然ながらも、そこまで徹底されているとは思いもよらなかった。ギルドマスターであるハウンドさんまでもがちょっと驚いているところをみるに、わりと国防に関する機密のようである。
で、正体がバレてどうなったのかというと、私はハウンドさんの弟子とギルドの見習い職員とフクロウ宅急便と王子の下働きを兼任するハメとなった。
ようは「後ろ盾になってやるから自分のために働け」ということである。
イケメン王子は、キラキラとした見た目のわりに、かなり腹黒であった。
うにゃーん。
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