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21 ヨーコの日常
しおりを挟む私こと神造小娘ヨーコの朝は早い。
冒険者ギルド四階にあるワンルームタイプの居室。
目覚めると簡単に身支度を済ませて、そのまま地下の訓練場に直行する。朝食前にハウンドさんに指導をしてもらうためだ。
なにせ彼はギルドマスターという重責を担う忙しい立場。小娘につきっきりになれるほど暇じゃないので、修行はどうしてもこの時間帯となる。
変身するときは周囲の目がない特別室にて、それ以外は通常の訓練室にて師匠に激しくもまれる。
師曰く、「素の状態での体の使い方が上達すれば、おのずと変身後の動きにも変化がみられる」とのこと。
黙々と与えられた訓練メニューをこなしていく。
今さらながらに気がつく少女体の丈夫さ。見た目が華奢なわりに頑丈だし、スタミナもある。チカラだって弱くない。私が人間だった頃の同じ年齢の時分とはまるで別物。
どうやらこちらもしっかりと改造手術の影響を受けていたようだ。あの島では寝る時以外に変身を解く余裕がなかったせいで、まったく気がつかなかったよ。
師匠となったハウンドさんは体術の達人だ。
昆虫人という種族は、もともと身体能力に優れたヒトが多いという。その中でも彼は最高峰に位置しているんだとか。
そんなヒトをして「自分よりも上」と言わしめた黒猫の着ぐるみの能力、なのに攻撃がまるで当たらない。組手をすれば、あいかわらずポンポンと投げられる日々が続いている。
そのカラクリは彼の経験、卓越した技量のほかに『気糸』という技にあった。
目に見えないほどの極細の糸を、クモの巣のごとく周囲にはりめぐらし、これによって領域内にて起こったすべてを察知して、瞬時に反応していたのだ。いわば個人版のレーダーのような役割を果たす技能。だがそれとてもきちんと活かす技量があったればこそ。
もしも私が同じ能力を持っていたところで、きっと彼のようには使いこなせない。
散々にズタボロにされた後は、ひとっ風呂を浴びる。
そうそう、ギルド内には訓練所に併設して浴室も完備されてあったのだ。しかも嬉しいことに、ゆったりと体を沈められる大浴場。いろんな種族が集うがゆえにこのサイズになったというが、これはありがたい。
ギルドは二十四時間体制にて常時稼働しているので、内部の設備も清掃とか整備中以外はいつでも利用可能。
おかげで朝から、贅沢なひと時を過ごせるというわけさ。
早朝だと誰もいないので、幼女特権にてバシャバシャ泳いじゃうぜ。
朝食は食堂にていただく。メニューは豊富でガッツリ系からあっさり系まで多種多様。なにせ色んな種族がごちゃまぜに暮らしている場所なので、職員だけでなくここに出入りしている冒険者や関係者らもごちゃまぜ。みんなの要望を取り入れていたら、自然とこうなったらしい。
国や土地によっては考え方も色々とあるらしいが、少なくともハムート国を中心とした近隣には種族による差別はない。知能があり意志の疎通がとれれば総じてヒトとされる。
私は朝からガッツリ系を喰らう。
異世界に来てからの憂さを晴らすかのように貪る。
さらば、塩味生活。もう二度と会うことはないだろう。素材の味を活かし過ぎたシンプル食生活なんぞクソくらえ! である。
食事が終わったらギルド内での見習い仕事をお昼まで続ける。
掃除をしたりお茶くみをしたり、書類整理を手伝ったりお姉さま方の肩を揉んだりと簡単な雑用をこなす。見た目が十才の女の子にまかせられる仕事なんて、こんなもんだよ。
昼食をがっつり食べたら、午後はお勉強の時間。
私はこの世界の言語は話せるけれども、読み書きがまるで駄目なのだ。
学校に通うという選択肢もあったのだが、それは断る。見た目はともかく中身は十七才の精神にとって、子供に混じるのはちょっとキツイというのが理由その一。
理由その二は学校で習う授業内容にある。
ここはモンスターごろごろなワリと過酷な世界だ。それゆえに子供たちは基礎学習と平行して、武器の扱いや魔法などの習得にも、幼少期より多くの時間を費やす。他所は知らないが少なくとも、このハム―ト国内ではそうなっている。
しかし私には魔力がない。
ファンタジーなのに魔法が使えないという悲しい事実が、ギルドの身体検査にて早々に発覚した。稀にだがそういうヒトもいるそうな。だからとて蔑まれたりはしない。なぜなら魔法が使えなくても出来ることは沢山あるから。過酷ゆえに人材を遊ばせておく余裕なんてないのだ。
戦い方に関しては最高峰の師匠がついているから、学校で習う意味がない。魔法の授業も使えないので意味なし。これだけで学校に通う意義の大半が失われている。だから通うのはやめた。
勉強は手の空いているお姉さま方が交代で教えてくれる。
受付にいた貫禄のあるオバちゃんも教えてくれる。迫力ある見た目に反して、教え方は丁寧でわかりやすかった。
あとはたまにラマンダさんの学園で特別授業を受けている。あちらでは主に文化や社会情勢などを習う。
勉強後は自主練を夕方まで続け、軽く師匠にもんでもらってから、がっつり夕食を喰らい、あとは寝る。
夜更かしや夜遊びは禁止されている。ハウンドさん的に駄目らしい。
子供は早寝早起きというのが彼の教育方針のようだ。
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