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18 文明との遭遇
しおりを挟む三度の失敗を経て変身フォームでの接触は難しいと考えた私は、街とかに近づいたら思い切って女の子の姿を披露することに決めた。
山の方へとのびる街道をひたすら進む。
次第にヒトの姿が増えて往来が賑やかになっていく。だから物陰にて変身を解いて、その流れに混ざった。
じきに見上げるほどに高い壁に囲まれた大きな都市へと辿り着く。
大門前には人々が大挙して列をなしている。
列の中にはいろんな容姿のヒトたちがいて、およそ想像しうるファンタジー世界の住人たちの、大半がいるんじゃなかろうか。
獣人とか普通にいるし、もしかしたらフクロウフォームとかならイケるんじゃないの? とも考えたが、ここは用心をして少女体にていくことにする。
行列に紛れ込むことしばし。
あわよくばどこぞの集団にくっついて、しれっと壁の向こうへと入り込もうと目論むも、あえなく失敗。
衛兵のおっさんに「ちょっと待った」と見咎められて、襟首を掴まれてしまった。
「お嬢ちゃんはどこから来たんだ? 親とはぐれたのか?」
訊ねられたので「ワケあり迷子」と答えたら、詰め所に連れていかれてしまう。
嘘ではない。
私は実際に人生に迷い、異世界に迷い、対人関係に大いに迷っているのだから。
だからとて真実が必ずしも信用に繋がるわけもなく、なんだかんだで両親は旅の途中で死んだ。一人でここまでやって来た。という嘘設定をまかり通すことにする。
そうしたら衛兵のおっさんには無茶苦茶、同情された。
「こんなに小さいのに、よく頑張ったな」
涙ぐまれて焼き菓子を貰い、温かいお茶まで振舞われる。
優しくされるほどに、こちらの良心がズキズキ痛む。
ううっ、地味に堪える。
島を出てからこっち、心にばかりダメージを受けているような気がするぞ。
無精ひげの生えた衛兵のおっさんは、もの凄く親切だった。
だって嘘設定を信じ込んで、わざわざ私を自分の知り合いが運営しているという、孤児院にまで連れていってくれたんだもの。
おかげさまで壁の中には無事に入れたけれども、素直に喜べない。私の良心は、もうノックアウト寸前よ。
異世界の孤児院といえば、貧乏教会とお人好し巨乳シスターがお約束。
勝手にそんな妄想をしていたら、連れていかれたのは立派な寄宿舎のある学園だった。女学校と併設してある孤児院だそうで、どこか文明開化の香りが漂っている古き良き時代のロマネスク建築。
内部では先輩後輩たちが、密かに百合百合した純愛を育んでいるような気がする。
引き会わされたのは巨乳シスターではなくて、黒いローブ姿の爆乳美魔女であった。
年齢のわりにキレイ、とかじゃなくて本物の美人の魔女。
彼女がここの院長のラマンダさん。
切れ長の目元が涼やか、その奥にある瞳の色が左右で異なる色白美人。妖艶と辞書でひいたら彼女の名前が載っていそうな大人の女性。教育者にあるまじき、お色気がムンムン漂う。
衛兵のおっさんとは顔見知りらしくって、二言三言だけ言葉を交わすと、彼は私を置いてさっさと仕事に戻ってしまった。去り際はわりとドライである。
二人きりとなった途端に美魔女が言った。
「それで貴女は何者なのかしら? ただの孤児なんかじゃないわよね。きりきり素直に白状しなさい」
ラマンダさんってば元冒険者のトップランカーなんだって。しかもオッドアイの紅い方の右目が鑑定眼。ひと目で私が尋常ではないことを見抜いたそうな。
自覚はないのだが、私ってばヤバイ気配が駄々洩れしているらしい。滲みでる才能の片鱗、見る者が見ればわかってしまうとは迂闊であった。
バレちまったものはしょうがないと、さしさわりのない程度にベラベラと事情を説明したら、なんかクスリと笑われた。艶のある笑み、ふわりとフェロモンが周囲に舞ったような気がする。
なのに手紙を一通持たされて、ぺいっと孤児院から放出された。
「それを持って冒険者ギルドのマスターに会いなさい」
ラマンダさん曰く、「ここは行くあてのない寄る辺なき子供たちの居場所、生きる術を持つ者を安穏とさせておく場所ではない」とのこと。
正論過ぎてぐうの音も出やしない。
こうして私は三食昼寝付き安穏生活を逃した。
バイバイ、素敵なお姉さまや愛らしい妹たち。
うにゃーん。
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