神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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17 サードコンタクト

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 山脈のある方へと通じている街道を黒猫の着ぐるみ姿で歩いていると、向こうから土煙が近づいてくる。
 慌てて脇の茂みに隠れて様子を伺う。
 長方形の箱に車輪が一杯ついた自動車っぽい乗り物が、目の前をけっこうな速度で通り過ぎて行った。

「あれは車だよねえ。装甲車っぽくてゴツかったけど」

 先日に遭遇したキャラバンでは馬車だったけど、今度は車か……。
 どうやらこっちの文明は私が想像しているよりも、ずっと発達しているみたい。だけど自動車は、まだまだ世間一般にまでは普及していないといったところかな。
 私はあの車の後を追うべきかちょっと悩むも、やはりそのまま道なりに進むことにする。

 しばらくすると前方の街道沿いに柵に囲まれた場所を発見。
 気づかれないようにコソコソと近寄り、物陰から中の様子を観察する。
 敷地内には公民館みたいな平屋が一軒あるだけ。井戸を取り囲むかのように十台ほど馬車が停まっている。多数の人影もあるし、その中には頭から耳を生やしている獣人らしき姿も混じっている。仲良く歓談しているところからして、種族によるつまらない差別とかはないみたい。
 ここはきっと休憩所とか停留所みたいな場所なのだろう。
 なんとなくいい雰囲気そうだし、ここは変身を解いて迷子の少女を演じて接触をはかってみようか? でも二度も続けてコンタクトに失敗しているし、もう少し様子を見てから……、などと尻込みしていたら異変が起きた。

「盗賊が出たぞー!」

 見張りしていたヒトの声で途端に騒然となる敷地内。男たちはすぐに武器を手にとり、女子供らは馬車や建物内部に避難する。
 正面の門が閉じられようとするも、それは間に合わない。
 二足歩行のトカゲみたいなのに跨った賊どもが、勢いよく突っ込んできて、侵入を許してしまった。
 守勢側はただでさえ数が不利なところを、混戦へと引きずり込まれて連携もままならず、個別に狩られ、じきに人質までとられて、ついに襲撃者らの軍門に下ることとなる。
 わずかな時間で制圧を完了した賊たち。手慣れてる印象だ。

「騒ぐんじゃねえ! 逆らえばどうなるか、わかってるだろうな」

 そう吠えた賊の一人が野卑た笑みを浮かべる。
 女子供の首に突きつけられた刃を前に、身動きを完全に封じられた男たち。
 悔し気な表情をしている彼らを前に、賊たちは巧くいったとホクホク顔。
 賊どもの会話より漏れ聞こえてきたところによると、偽情報にてここの守備隊をよそにおびき出した上での襲撃であったようだ。
 ということは、さっき見かけたあの車がソレなのであろう。
 なかなか狡猾な連中である。でも無闇に降伏したヒトたちを斬り殺したりはしないようなので、ちょっと安心していたら乙女の悲鳴が鳴り響く。
 見れば賊の一人が物陰に幼い女の子を引きずり込んで、狼藉を働こうとしているではないか! いくら性癖はヒトそれぞれとはいえ、アレは完全にアウトだ。とっさに足元の小石を拾い投げつける。アンダースローにて放たれた石は、狙いあやまたずゲス野郎の後頭部を直撃した。
 冴えわたる私のコントロール。お兄ちゃんとのキャッチボールで鍛えた腕は伊達じゃない。

 覚悟を決めて敷地内へと飛び出す。
 不意に現れた黒猫の着ぐるみ姿に、パニックになる現場。

「うわ、なんかヘンなのが出た!」
「このヘンな化け物め!」
「なんだこのヘンなモンスターは?」

 賊たちからの心無い言葉の数々。
 私のナイーブな心はズタボロに傷ついた。
 怒りを拳にのせて「にゃあ」と地面をぶん殴る。
 猫パンチの衝撃にて足下がへこむ。続いてちょっとした局所的地震が起き、敷地内を揺らし、私以外の全員が尻もちをつく。
「うにゃー!」と雄叫びをあげ、ギロリと猫目でひと睨み。
 すると二足歩行のトカゲどもは飼い主を置いて、とっとと逃げ出した。
 どうやら「こいつら焼いたら美味そう」という私の想いを敏感に感じ取ったようだ。
 そんな中で、いち早く立ち直った賊のボスらしき男が襲いかかってくる。
 頭上より振り下ろされる剣。
 刀身を無造作に掴んだ私はバキリとへし折り、そのヒゲ面へと猫パンチを放つ。
 ただし当てはしない、寸止め。
 鼻先でピタリと止まった猫の拳。拳圧だけで男の意識を刈り取るには充分であった。
 ぶくぶく泡を吹き、白目をむいて崩れおちる賊のボス。

「まだ続ける?」

 声をかけたら、賊たちは全員武器を捨て降参した。
 そして助けたハズのヒトたちからは怯えられた。
 誰も猫目と目を合わせてくれない……。現場になんとも言えない気まづい空気が流れる。
 そんな中で唯一、声をかけてくれたのが襲われていた女の子。
 穢れを知らぬ円らな瞳が、じーっと黒猫の着ぐるみを見つめる。
 そして少女は言った。

「ありがとう。ヘンなかっこうをしたおねえちゃん」

 きっと彼女に悪意はない。小さな子供ってば思ったことが素直に口から出るだけだからね。でもその無邪気なひと言が、グサリと胸に突き刺さる。
 今日一番のダメージを受けた私は、泣きべそをかいてその場を立ち去った。

 サードコンタクト、悲しみに耐えきれずに失敗。
 うにゃーん。



 
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