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07 第二形態
しおりを挟む今朝は早くから浜辺に来ている。
白い砂浜がどこまでも続く。朝陽を受けてコバルトブルーの海が燦々と輝き、その遥か彼方の水平線を眺めていると、ついつい時のたつのも忘れるほど。
これで無粋なモンスターどもが出没しなければ、最高のリゾート地なのに……。
とくにあのマズいカニはいらない。奴のガッカリ具合はあまりにも酷すぎる。クモやダンゴムシにも劣るカニ肉なんぞに、存在価値はない。
そんなことを考えながら私は波打ち際に立つ。
異世界サバイバル生活が早くも一ヶ月ほど経とうとしていた、つい先日のことだ。
住処の岩穴でゴロゴロしていたら、ピコンと頭の中で音がした。
私に改造手術を施した、あの子どもの神さまの録音っぽい音声にて「能力が成長しました。第二形態が解放されます」と告げられる。
それを試すためにここまで来たのだ。
「変身! 第二フォーム」
天に右手をかざし高らかに叫ぶ。
本当はこんな動作、必要ない。心で念じるだけで変身できるのは確認済み。だからとて叫ばねばならない。たとえやさぐれた黒猫の着ぐるみ姿の身の上だとて、それが変身なのだから。
足下の影がブワっと広がり私の身をつつみ込んで球体となる。
内部にて無数の黒い糸が紡がれて、絡みつき新たな姿へと変じていく。
パチンと黒い球体が弾けて、中から変身を遂げた私の第二形態が姿を現す。
砂浜に立つのは、ボン・キュッ・ボンのセクシーダイナマイトな女体。
銀色をした薄いウロコに全身が覆われているが、いささかもボディラインを崩すことなく、見事な調和を保っている。
肩と首にずっしりとかかる双丘の重み。お胸がバインバイン過ぎて自分の足下がまるで見えない。
これが持つモノだけに許されるという頂の景色なのか。だというのに……。
首から上にはマグロのお頭がのっていた。
目玉を食べると頭が良くなるとか言われているアレが、ででんとね。
魚頭にエロ女体という奇天烈な姿。
思わず私はマグロ頭を抱えてうずくまる。
「黒猫はアニメ調にデフォルメされていたのに、なんでマグロはリアル系なんだよ!」
天に向かって抗議するも、もちろん返事はない。
私のクレームは潮騒に紛れて、さらりとどこぞに流されて消えた。
クヨクヨしたところでしようがないので、一部マニアに大受けしそうなマグロフォームにて海へと入ることにする。
黒猫を陸用としたらマグロは水中用、ゆえに水に馴染む馴染む。
スイスイと面白いように泳げる。
これは楽しい。見た目は半魚人だが、気分はまさにマーメイド。
遊びながら、いろいろと試しては第二形態の能力を確かめていく。
海水の透明度が高くて、底にまで太陽の光が届いており視界も良好。
ほんの数分ほど潜っただけで広がるのは、色とりどりのサンゴ礁や海草などが生息している異世界の海底。まるで絵本のようなメルヘンチックな色彩に満ちており、そこはとても美しかった。
だがそれだけじゃあ許されないのが、モンスターアイランド。
案の定、美しい景色のそこかしこでは、弱肉強食の闘いが繰り広げられている。
そして少し沖合にまで出た途端に姿を現したのは、超巨大サメであった。フェリーぐらいもあるぞ。
そんなのが大口を開けてこっちに迫って来る。口の中には無数の牙の他に、大きな目玉がひとつあって、私のことを血走った眼で見つめていた。
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