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048 終業式、校長のナゾ、迫るエックスデー
しおりを挟む熱中症が怖いので体育館で行われた一学期の終業式。
でも生徒からするとグランドというフライパンの上でこんがり焼かれるのか、体育館というサウナでじっくり蒸し焼きにされるのかのちがいでしかない。
そして毎度毎度思うのが……。
「校長先生の話って、どうしてこんなに長いんだろう」
したたる汗をハンカチで拭きながらわたしがぼそりとつぶやけば、すかさず多恵ちゃんが「だよねえ。だらだら長いし、つまんないし、ちょいちょいはやりを盛り込んでくるのがなにげにムカつくし」と続く。
はやりを盛り込むとは、子どもたちの間で流行しているギャグとか、アニメやマンガとかのネタをつまむこと。
校長先生としてはこれにより親近感をアピールしているつもりなのかもしれないけど、そんな考えが透けて見えてしまい、聞かされる子ども側はしらけている。
うんうん、多恵ちゃんの言葉にうなづく周囲の子たち。
ここで背筋をのばしお行儀よくツンと澄ましていた月野さんが珍しく会話に加わった。
「この手のスピーチをあつかった専門誌があるそうよ。おおかたそこから適当に切り貼りしている内容だから、これほどまでに心に響かないのでしょうね」
言葉こそは丁寧だけどかなり激辛な評価である。
一見するとあまり汗をかいていないようにみえて、月野お嬢さまもけっこうイラ立っているみたい。排熱していない分、かえって内部に怒りの熱がこもるのか?
すると真田くんが「どうして校長は平然と長話を続けられるのか」とのナゾについて独自の見解を披露する。
「そんなの簡単じゃねえか。校長のおっさんは壇上で一人きり。でもってこっちはギチギチのおしくらまんじゅう状態なんだから」
大人と子どもとでは気温の感じ方がちがう。
立ち位置によって体感温度に差が生じる。
ついでに歳を重ねるとこの手の感覚が鈍くなるらしい。
背が低い真田くんならではの自論。
でもってその説があながち外れていないことは、モデル体型の高身長にて周囲より頭ひとつ飛び抜けている霧山くんが、わりと涼しげな顔をしていることからもたしからしい。
いきなりみんなから恨めしげにジーッと見つめられて、霧山くんが困惑したところで、「こほん」と小さな咳払い。
誰かとおもえば壁際に控えていた五年二組の担任のヨーコ先生。
ひとさし指を口元にあてて「しー」とのポーズに、わたしたちはあわてて口をつぐんだ。
………………にしても、やっぱり暑い! そして長い!
◇
終業式はとどこおりなくすんだ。
ぐったりさせられたものの、うれし楽しい夏休みへと一歩近づいたと思えば、体育館から教室へと戻る足どりも自然と軽くなるもの。
もっとも宿題の山と通知表のせいで、すぐに気分はズーンと沈むことになるのだけれども。
これまた毎度のことながら夏休みの宿題が多すぎる。
ドリルだけでいったい何冊あるの? この炎天下にこれを全部持って帰れとか。観察用の朝顔の鉢もあるのに、なんという苦行。
おかしい、ちょっとヘンだよ!
だって夏休みってのは、もともと暑さゆえに勉強がはかどらないから設けられたモノだったはずなのに(※諸説あります)。詰め込み教育、断固反対!
そんなわたしの心の叫びに、髪留めに化けている生駒がやれやれとあきれた。
◇
仲良しの多恵ちゃんといっしょに下校。
いつも別れる橋のたもとにて。
「じゃあ、結ちゃん。あとで電話するから」
「うん、わかった。またね」
プールに花火にお祭りに宿題にお泊り会とか、この時期はイベントが目白押し。
長いようであっというまに過ぎちゃうのが夏。
ぼんやりしている暇などないのだ。
大量の荷物を抱えて、ふうふう汗だくになりながら帰宅する。
いよいよ明日から夏休み。
浮かれる気持ちがある一方で、沈みっぱなしになっている気持ちもある。
エックスデーは七月二十八日。
丸橋小学校のキラキラ王子さま。霧山くんがいよいよ引っ越す。
業者のトラックを先に出立させてから、自分たちはお父さんの運転する自家用車で転居先へと向かうとのこと。
真田くんとか月野さんら比較的彼と近しい人たちは最後の見送りにいくという。
もちろんわたしもそのつもりだ。
わたしはそこで霧山くんとの約束を果たす。
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