四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝

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022 似た者同士、仮面の告白、乙女猛省する

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 おにぎりと温めたオカズをのせたお皿を手に台所から姿をみせた霧山くん。
 手慣れた様子にて準備を整えると、それをもそもそ食べ始める渡辺和久。
 それを眺めながら霧山くんは自分で淹れたコーヒーをすすっており、わたしは彼の膝の上でだらりとくつろぎネコのふりを懸命に演じる。
 いや、だってキラキラ王子さまの膝枕だよ? 親衛隊の子たちからしたらヨダレもののシチュエーション。役得でうれしいけど、ドキドキしすぎてちょっと胸が苦しい。

 おにぎりをひとつたいらげたところで、渡辺がぼそっと「引っ越しの準備はどうだ」ときいた。
 霧山くんは手にしていたマグカップを置いて「いまのところは順調、かな」と答える。
 なにやら含みのある物言いに渡辺が片眉をあげる。
 話しの続きをうながされて霧山くんがしぶしぶ口を開く。

「引っ越すことがわかったとたんに、女の子たちの行動がちょっと……」

 以前からラブレターの類はしょっちゅうもらっていた。けど、ここにきて呼び出しやら、待ち伏せ、つきまといが増えている。それも集団で。しかも相手は小学生だけではなく中学生や高校生の場合もちらほら。
 彼女たちにとっては記念告白みたいなつもりなのかもしれないけど、される方はたまったものじゃない。真剣じゃないとまではいわないが、どこか軽薄さが漂っている。自分をネタにして盛り上がって悪ふざけをしているだけのようにしか思えない。
 そんな想いばかりを一方的にぶつけられたとて、毅然と断ればいいだけのこと。
 でも何かを拒絶するという行為は、ただそれだけで心労が重なるもの。
 もちろん中には真剣な子もいるのだろう。しかしそれはそれでどうしようもない。受け止めようがないのだ。電車で数時間の距離が子どもの身ではとてつもなく遠い。
 また自分の一挙手一投足が大勢の女子たちから注視されているのもわかっている。
 だからこそ下手なマネができない。つねに感情を押し殺して、慎重な行動をしいられる。それはとてもしんどいこと。
 霧山くんがいったん話を区切ったところで、すかさず渡辺が口を挟む。

「勝手なイメージばかりを押しつけられるか……。モテる王子さまはつらいな」

 岬良というペンネームで活躍している売れっ子覆面作家の渡辺和久。
 彼もまた似たような境遇にある。作品の良し悪しや内容と著者の人格や容姿は関係ないはずなのに、ことあるごとにごっちゃにされる。
 岬良という作家はこうあるべきだ、みたいに。
 それを有名税だと笑って受け流せるような性格ならば、彼はこんな隠者のような生活を続けてはこなかっただろう。
 本当に不器用な人なんだと、わたしはあらためて思う。
 そしていまわたしは猛烈に自分が恥ずかしくってしようがない。
 同じだった。
 少女マンガに登場するキラキラ王子さまみたいと霧山くんを持ち上げて、勝手なイメージを押しつけて、ただキャアキャア騒いでいるだけの軽薄な女子たちと同じ。
 ちょっと考えればわかりそうなものなのに。ちらりとも思い浮かばなかった。想像できなかった。理解しようしなかった。本当に好きならば、相手のことをまず第一に考えるべきであったのに。

「お父さんから転勤の話を聞かされたとき、ちょっとうれしかったんだ。自分のことを知る人が誰もいない土地にいける。そこでやり直せる。もう仮面をつけて生活しなくてもいいんだって」

 ぽつぽつ語る霧山くんの言葉に、わたしは胸の奥がギュッとなる。
 以前にトラックに巻き込まれそうになっていた真田くんの妹の萌咲ちゃんを助けたときに、彼はもうすぐこの地を離れるから時間をみつけては街をぶらついていると言っていた。
 生まれ育った故郷を出てゆく。そのことを寂しく思っているという気持ちにウソはない。けどそれ以上に彼はわくわくしていたんだ。
 行く者と残される者の間にある意識のズレを知ってわたしはショックを受けた。それと同時に、とても悲しい気持ちにもなった。
 そして身勝手は承知の上でこうも強く思った。
 こんな気持ちのままでお別れしたくない、とも。

  ◇

 渡辺和久の家を辞去したところで、わたしは霧山くんから離れる。
「もう行くのか」との声に「にゃーん」と答えてしっぽをゆらゆら。
 わたしはらせん階段の方からマンションの外へと向かう。
 駐車場にトラ太郎たちの姿はない。義兄弟そろってエサ場にでもくり出しているのであろう。これさいわいとわたしは敷地から抜け出すことにする。
 途中、立ち止まってふり返るとまだこちらを見送っている霧山くんの姿があった。いろいろ苦悩しつつも周囲に気を配り期待に応えようとしている彼を、わたしはやっぱりやさしい人なんだと思う。
 まぁ、それはそれとして……。
 イケメンに見送られるというのも存外悪くないね。これはよいもの。
 わたしはにゃんにゃん軽やかに駆け出した。


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