四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝

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015 染まる願い石、山寺、乙女のルーツ

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 体育の授業が終わって着替えているときのこと。

「およ、結ちゃんてばそんなお守りを首からさげてたっけ?」

 目敏い多恵ちゃんに見つかって、わたしはドキリ。
 これには生駒から渡された願い石なるモノが納められている。三つのお仕事を手伝い見事に完遂したあかつきには、わたしに満願成就をもたらしてくれるという話。
 しかしそれをバラすわけにはいかない。
 だからとっさに「おばあちゃんにもらったの」と誤魔化しておいた。

  ◇

 休憩時間にトイレへと駆けこんだおり、さっきのやりとりもあってか少々気になったものだから、わたしはお守り袋の中身を確認してみることにする。
 入浴時以外はだいたい身につけているけど、それゆえにわりと雑にあつかっていたから。ひょっとしたらヒビでも入ったり、欠けたりしていないかと心配になった。
 袋をひっくり返えすなり、手の平にコロンと転がり出た小石。
 目にしてわたしは「えっ」と驚きの声を発する。
 小指の爪の先ほどの半透明な小石だったのに、それがほんのり青くなっていたからである。
 変色した?
 わたしが不思議がっていると、髪留めに化けている生駒が教えてくれた。

「それは仕事を一つかたづけたからだよ。仕事をこなすほどに願い石は幸福値を貯め込んで青さを増していく。三つの仕事すべてをこなしたとき、そいつは晴天の夏空のように真っ青になるだろうさ」
「へー、そうだったんだ。ところで次のお仕事ってのは何なの? またペット探しとか動物がらみなの?」
「いいや、次のはがっつり人間相手になるよ。じつはけっこうややこしくてねえ。いうなれば、複雑にからまったえにしの糸をほどく作業というかなんというか」

 稲荷の眷属である三尾の灰色子ギツネが言いよどむ案件。
 どうやら次の仕事もひと筋縄ではいかないようだ。
 だからもう少し詳しい話を聞こうとしたところでチャイムが鳴りだす。わたしはあわててトイレの個室を出て教室へと戻った。

  ◇

 いつものごとく多恵ちゃんと仲良く下校する。
 いったん自分の家に帰ってランドセルを置いてから、わたしは生駒の祠へと向かう。
 周囲に誰もいないことを確認してからわたしはネコに化ける。
 各地の祠同士を繋ぐ紅葉路を通り、飛び出したのはとある山奥にあるお寺の境内だった。
 凛しゃんとした静寂と空気。
 なかなかの雰囲気にておもむきがある場所。歴史の重みとか風格が備わっている。
 かつて有名な武将とか剣豪とかが修行で座禅を組んでいた。とかいうエピソードがありそう。
 キョロキョロ眺めつつそんなことを考えていたのだけれども、自分たちが通ってきた祠とお寺の本堂を見比べて、わたしは首をひねる。

「あれ? ここってばお寺だよね。どうしてお稲荷さまがあるの」

 お寺は仏教の建物。大きな釣鐘があり、ナムナム念仏を唱え、仏像などが祀られている。
 神社には鳥居があって、パンパン手を合わせ、稲荷とか仏さま関係とはちがう系統の神さまたちを祀っている。
 宗教でいえば二つはまるで別物。
 それがこの山寺では仲良く同居している。いや、規模からするとこの場合はお寺に神社が転がり込んで居候を決め込んでいる?

「おや、結は知らなかったのかい。これは神仏習合の名残りだよ」
「しんぶつしゅうごう?」
「ずーっと昔は神道だけだったんだけどねえ。まぁ、こいつも大概いい加減だったんだけど、そこに仏教が加わって、なんやかやあってまとめちまったんだよ。どうせ同じ拝む対象なんだからってね。
 やれクリスマスだ、ハロウィンだ、初詣だ、七五三だ、と年がら年中騒ぐ国民性のルーツみたいなものだよ」
「へー、節操ないなぁとは思ってたけど、それって昔からだったんだね」
「そうそう。でもって、サムライの世が終わって明治になった際に、ときの新政府によって神仏分離令が出されて、また別れることになるんだけど……」

 面倒くさいからと放置されたのが全国に数多。それが現在へと至っている。
 それもまた国民性の発露。「なあなあ」でことをすます性分は古き良き伝統みたいなもの。これをおおらかと考えるか、適当や横着とするかは判断に迷うところ。

「やれ勤勉でマジメな国民性だとか、あんなものはウソっぱちさ。あたいからすりゃあ、ちゃんちゃらおかしくって、ヘソで茶が沸くってもんさね」

 ケラケラ笑う生駒。でも自分の血の中にもそういった適当成分が混じっていることを知らされたわたしは、ちょっと複雑な心境である。

  ◇

 ひとけのない境内を抜けて、併設されてある墓所へ。
 山の斜面に段々と連なる墓地には、大小いろんな形をした墓石に卒塔婆がいっぱい。比較的新しいモノもあれば、刻まれた文字がかすれて読めなくなっているモノもある。
 お供えされてある花は圧倒的に菊が多いけれども、なかには早咲きの向日葵もあった。ひょっとしたら故人が好きだった花なのかもしれない。
 ぽつんと空いているところは転居したのか、あるいは墓じまいをしたのか。
 墓地内の参道はとてもキレイだ。こまめに掃き清められているだけでなく、雑草なども頻繁に手入れしているらしい。
 そんな中をにゃんにゃん進んでいたら、わりと新しいお墓の前でしゃがんでいる一人の女性の姿があった。


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