四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝

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008 ニャア、カァ、古ダヌキぽんぽこ

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 フムフムと双方の主張に耳を傾けていたロシアンブルーのネコ奉行さま。
 いきなりこっちを向いたとおもったら「おい、そこのもの。これへ」と声をかけてきたものだから、わたしはびっくりして「はいにゃん」と鳴いてしまった。
 生駒がこっそり「無礼を働くんじゃないよ。御用にされちゃうからね」と怖いことをぼそり。ウソでしょう。そんな話、聞いてないんですけど!
 だったら自分で応対してくれたらいいのに、生駒にその気はないらしい。あくまで首輪に化けたままで通すつもりのようだ。「だってこれは結のお仕事だもの」と言われては、ぐぬぬ。

 ちょいちょい手招きするお奉行さま。
 その姿が品のいい招きネコにしか見えない。
 ドキドキしながらお白洲へとあがったわたしは、なぜだか茶トラとカラスの間へと座らされる。
 そしてお奉行さまから今回の訴えの内容、地元にあるおいしいエサ場を巡って、ネコ組とカラス組が対立していることをざっくり説明されたのちにこう言われた。

「ほれ、この通り。双方ともにガンとして譲らぬのでな。ここはひとつ、まったく関係のない第三者から忌憚のない意見を聞いてみようと思うてな」

 えーと、何やらむずかしい単語が出てきたぞ。きたんって何?
 意味がわからずモジモジ困っていたら、見かねた生駒がこっそり教えてくれた。

「遠慮はいらない。思ったことを好きに言えってことだよ」

 なるほど、勉強になる。
 しかし本当に素人考えで大切な裁判の行方を左右してもいいのかしらん。
 というか下手なことを言ったら、茶トラとカラスから恨まれそうなんだけど。その証拠にめちゃくちゃ見つめてくるし。視線に込められた圧が強い。しっぽの毛がびりびり逆立っちゃってるんですけど。
 かといって適当にお茶を濁しても、お奉行さまが許してくれそうにない。
 さてどうしたものか。そもそもわたしはネコの気持ちはちょっぴりわかるが、カラスの気持ちはとんとわかりやしない。どっちの言い分が正しいとか判断のしようがない。

 ……うん? ちょっと待って。

 たしかにわたしにはどちらの気持ちもわからない。でもわかることが一つだけある。
 それは人間の考え。
 ゴミ出しをしている側とすれば、ゴミ捨て場を荒らされるのは好ましくない。
 けど残り物を食べられること自体には特に含むところがない。食べ物が焼却処分されるよりも必要としている誰かの糧になれるのならば、そのほうがずっといい。
 もちろん無責任な餌付けがダメなのは知っている。とはいえ、それを声高に叫んでいるのもまた人間なんだよねえ。動物たちからすればウマそうなニオイだけを嗅がせて、「あんたたちはダメ。あーげない」と言われているようなもの。とてもいけずな話である。
 とか考えちゃうのもまた、わたしがネコの姿に化けているせいなのかも。どうにも思考が引きずられちゃうみたい。
 それらを踏まえてわたしは自分の意見を述べる。

「このままどちらも我を張って争いを続けていたら、それだけエサ場が汚れてしまうでしょう? そんなマネを続けていたらじきに人間たちも怒って、頑丈なゴミ箱とかを持ち出すかも」

 わたしのこの話にお奉行さまはウンウンうなづき、茶トラとカラスは「そんなぁ」と悲痛な声をあげた。
 それを横目にわたしは話を続ける。

「だからここは欲張らずに仲良く分け合いましょう。ついでに手先が器用なタヌキかイタチあたりを仲間にして、きれいにごちそうだけを抜き取るというのはどうでしょう」

 ゴミ袋を破いてぐちゃぐちゃにし、食い散らかすから人間たちは怒る。
 ネコとカラスがこぞってそんなことをすればどんな悲惨なことになることやら。
 怒りが爆発しその矛先がどこに向かうのかなんて、いちいち口にするまでもないだろう。
 だから丁寧に袋をあけて中から欲しい品だけをちょうだいして、あとは片付けておく。見つけた人間が「またか、もうしようがないなぁ」と許してくれる程度にとどめる。
 そうすればより安全にごちそうにありつけるはず。
 このわたしの案に茶トラとカラスは渋い顔となり、「そんなことをしたら食べられるごちそうがさらに減るじゃないか!」とニャアカアこぞって反論。
 しかしお奉行さまは「ふむ、悪くない考えだ」と賛同する。

「二本足より三本足、三本足より四本足のほうが安定しているのが世の常。だが割れる数だと容易に争いが起こりかねん。
 そうなればきっと貴重なエサ場そのものが失われることであろう。それは悲劇だ。
 ちょうどよい。この近くに自分の知り合いのタヌキの頭領がおるゆえに、それを紹介してやろう。あれは立派な古ダヌキ、きっとぽんぽこ助けになってくれるであろう。
 では判決を申し渡す。『タヌキの頭領を頼れ』
 以上をもってこたびの評定をしまいとする」

 かくして沙汰は下った。
 自分で提案しておいてなんだけど、本当にこんなのでよかったのかしらん。どのみち時間の問題のような気がしなくもないんだけど。
 するとお奉行さまはおっしゃった。

「よいよい。世はうつろい、人もうつろい、獣のあり方もうつろうもの。エサ場もまたしかり。実りが多ければ山野を駆けまわり、濃い味つけが恋しければ人里を彷徨えばいいだけのこと。そもそもからして絶対の答えなど存在しうるはずもなし」

 なにやら小難しいことをおっしゃるロシアンブルーのネコ奉行さま。
 生駒に要約してもらったところでは「状況に応じて柔軟に対応」ということらしい。もしくは「その場しのぎ上等」とか。うーん。


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