68 / 72
067 起死回生の策
しおりを挟む星華の苛烈な攻め!
あまりの手数の多さに、切っ先がいくつもあるかのように錯覚する。
その動き自体は直線的ながらも、小刻みに前後しては間合いを変幻自在に調整し、こちらを翻弄する。
剣を繰り出す速度にも緩急をつけては、殺気まで絡めてくる。
あまりにも鋭い剣撃のために、知らず知らずのうちに目が彼女のレイピアへと釘付けにされてしまい、全体像を把握する余裕がない。
視野が狭まる。相手を俯瞰できない。互いの立ち位置や間合い、太刀筋も把握しづらい。
そのせいで一拍、一歩で遅れをとる。
ただでさえ星華は速いというのに、これでは永遠に追いつけない。
一期は亀のように丸くなりどうにか耐えしのぐ。
その甲斐あって、いざ反撃となったとおもったら、彼女は絶妙なタイミングでスッと身を退く。
放った渾身の刃は虚しく空を斬るばかり。
かとおもえば、すかさず攻め込んでくる。
まともに打ち合っていては、時間の問題であった。
そこで一期は遮るもののない開けた場所である地の利を活かし、スススと横へと流れ、円の動きにてどうにか戦いのペースを握ろうとする。
しかし、それを簡単に許す星華ではない。
一期の描く大きな円の陣内を、星華が猛スピードで駆け抜け飛び回る。
その姿はさながら銀の尾を持つ流星のごとし。
彼女の軌跡が三角形、四角形、六角形などの多角形を瞬時に出現させては、幾何学模様を造り出し、たちまち円のなかを埋め尽くし、内部から円を喰い破ろうとする。
そうしている間にも幾合となく刃が交わされていた。
一期に預けている千里の肉体に小さい傷が増えていく。
しがみついている精神体の千里の方も同様だ。着実にダメージが蓄積している。
比べて、星華の方はほぼ無傷にて。
しかもこれほど激しく動き続けているというのに、呼吸がほとんど乱れておらず、汗もかいていない。
円がじょじょに大きくなっている。
内側からの圧力に押されているせいだ。
どうにか保っていた拮抗が崩れつつあった。
まだ余裕がありそうな星華に比べて、こちらはすでにギリギリだというのに。
勝敗の天秤が相手側へと傾きつつあるのを止められない。
さなか、一期が背にしがみついている千里にだけ聞こえるように囁いた。
「……このままだと勝てない。が、打開策がひとつだけある」
一期が口にした打開策とは、わざと己が刀身を傷つけ表層に施された封印をほころばせ、戦禍躬の力を解放するというもの。
そうすればいままでの比ではない力を発揮できる。いっきに星華とルイユを倒すことも可能。
短時間ならば、どうにか自我を保てると一期は請け合う。
けれども千里はなんとなく、それはやるべきではないと感じた。
理屈じゃない。女の勘といえば、いささか根拠に乏しいのかもしれないが、精神体となっているいまの千里はいろんな感覚が鋭敏になっている。この状態のときの超感覚は侮れない。
だから千里は断固反対するも「……なら、どうする? 現時点での憑依はこれが限界だぞ」と一期。
そうなのだ。
一期と千里の親和性を高めることで、憑依はより完成形に近づく。
だが、現状はイマイチにて、割合で言ったらせいぜい五割前後。
対して、星華とルイユの合体技であるエル・フェリークは、たぶん八割を越えているとおもわれる。
ベースとなっている肉体の能力も加味したら、その差は歴然!
どう逆立ちしたって勝ち目はない!
だからとて一期の封印を解くのはダメだ。
きっと取り返しのつかない事態を招くような気がしてしょうがない。
(本当に、もう何もないの? 他にできることは……私にできることは……)
悩める千里であったが、その間も星華は攻撃の手を休めることはない。
乱撃の間隙を縫って、閃く切っ先。
胸めがけてレイピアの刺突が向かってきたもので、一期は上半身をひねりながら、大太刀にて受けそらす。
ひょうしに、彼の背にしがみついてた精神体の千里は振り落とされそうになった。
が、その時のことである。
たまさか千里の左手が触れたのは、一期が腰に差している鞘。
赤朽葉色の鞘に触れた瞬間、スッと吸い込まれるような感覚がしたもので、千里は『ん?』
気のせい……ではない。
再度、指先でつんつんしてみたら、やはり同じようになる。
その現象を発見したところで、千里はあることを閃いた。
『もしかして……これならイケるかもしれない!』
起死回生の策を思いつき、千里は一期にごにょごにょ耳打ち。
2
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜
瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。
大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。
そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。
あやかしが家族になりました
山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ
いつもありがとうございます。
当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。
ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。
一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。
ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。
そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。
真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。
しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。
家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~
二位関りをん
キャラ文芸
桃玉は10歳の時に両親を失い、おじ夫妻の元で育った。桃玉にはあやかしを癒やし、浄化する能力があったが、あやかしが視えないので能力に気がついていなかった。
しかし桃玉が20歳になった時、村で人間があやかしに殺される事件が起き、桃玉は事件を治める為の生贄に選ばれてしまった。そんな生贄に捧げられる桃玉を救ったのは若き皇帝・龍環。
桃玉にはあやかしを祓う力があり、更に龍環は自身にはあやかしが視える能力があると伝える。
「俺と組んで後宮に蔓延る悪しきあやかしを浄化してほしいんだ」
こうして2人はある契約を結び、九嬪の1つである昭容の位で後宮入りした桃玉は龍環と共にあやかし祓いに取り組む日が始まったのだった。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる