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061 二の鳥居
しおりを挟む屋根付きの登廊を進んだ先にて。
二の鳥居をくぐった一行は、またしても立ち止まらずにはいられない。
激変した景色に目を見開き息を呑む。
薄っすらと朝靄がかかっている。
樹齢三百年を越えるような巨大な杉木立ち。
静寂が林に溶け込んでいた。
苔むす石段には、まるでその一段一段にまで霊気が宿っているかのよう。
やや肌寒いものの、空気が凛と張り詰めている春先の早朝。
いにしえから積み重ねてきたであろう歴史の香りが漂う。
降り注ぐ木漏れ日、陽光を受けて朝露たちがキラリと光る。
ひとつひとつはとても小さな光、だけれどもその力強いことといったら……
一の鳥居の先にあった屋根付きの登廊とはまた違った趣きの荘厳さ。
いや、そればかりではない。
ここの石段には見る者を圧倒せずにはいられない、大きな何かが宿っている。
千里がぽかんとしていたら、蓮が言った。
「あら? 出羽三山神社のある羽黒山に、ちょっと雰囲気が似ているわね」
出羽三山(でわさんざん)は、山形県村山地方・庄内地方に広がる月山(がっさん)、羽黒山、湯殿山(ゆどのさん)の総称である。
古くより修験道を中心とした山岳信仰が盛んで、三山のそれぞれの山頂に神社があって、これらを総称して出羽三山神社という。
ちなみにここの石段参道は二千四百四十六段もあり、その距離は二キロ近くもある。
「ふ~ん、……ってことは、まさか!」
白い靄の奥へと続いている石段を見上げ、千里は冷や汗たらり。
「フフッ、まぁ、いちおう覚悟はしておいた方がいいでしょうね」と蓮は微笑んでから真顔となる。「さてと、じゃあ、ここは私が受け持つとしましょうか」
そう言った蓮の視線の先には、暁闇組チームの劉生がいた。
向こうもそのつもりらしく、仲間たちから離れてひとり前へと出る。
このふたりにも因縁がある。第二幕のおりにやり合ったものの、あの時は半端なところでお開きとなった。
どうやら彼らも一の鳥居にて万丈と夾竹が残った流れを踏襲するつもりのようである。
瑞希蓮と迅劉生。
両チームともに居残る者が決まったところで、他の面々は先へと進むことになった。
その別れ際……
「あんまり無理しないでね」と案ずる千里に「心配しないで、そんなつもりは毛頭ないから。適当にのらりくらりとやり過ごすわ。それよりもセンリちゃんの方こそ無茶をしちゃダメよ」と蓮。
一期、悠人、宮内さん、夕凪組チームのメンバーらも蓮に声をかけては「きっと上で会おう」「待っているぞ」などと約束する。
比べて暁闇組チーム側は淡泊なもの。とくに別れを惜しむこともなく、星華がチラリと劉生を見て、劉生が小さく頷いただけであった。
残るふたりが一行を見送る。
その姿がじきに朝靄の奥へと消えた。
二千以上もの石段を歩き切るのに、一時間以上は優にかかるはず。
けれどもいまは大禍刻にて、ここは異空間だ。
通常時とは違う。
先ほど蓮が千里に言ったのは冗談にて、実際にちんたら石段を歩いていたら、大禍刻が終わってしまう。
すると案の定であった。
しばらく待っていたら、ふと伝わってきたのは、場の空気がほんの少し変わる気配……
「おっ、いまお嬢たちが第三の鳥居をくぐったみたいだな」
「そのようね」
「さてと、じゃあ、こちらもそろそろ始めようか」
「……はぁ、私としては、あんまりこういう暑苦しいのは好みじゃないんだけどね」
「だからとて、アンタはおとなしくやられるようなタマじゃねえだろう?」
「まぁ、そうなんだけどね」
言葉を交わしながら、劉生が自身の拳に蒼い炎をまとわせ、ファイティングポーズをとった。
対峙する蓮の足元の影がうねり、あらわれたのは大量の毛髪たち。
続けて蓮の両手が巨大なハサミへと変じたばかりか、その身が黒く変色していき、やがて麗人は影法師姿となった。
これに劉生が「うれしいねえ」と目を細める。
「それがおまえさんの本性か……。前のときは半端だったが、今回は全力で相手をしてくれるってことだよな?」
「まあね。でも私、この姿、あんまり好きじゃないのよねえ。シルエットはともかく彩どりがまったくないじゃない」
「そうか? 俺はなかなかカッコいいと思うが」
「カッコいいねえ……。はぁ、私としてはカワイイ、キレイの方が嬉しいんですけどっ!」
蓮が言い終わるやいなや、いきなり飛び出したのは毛髪たち。
互いに寄り集まっては、ドリルのような形状となり回転しながら襲いかかった。
劉生は大きく飛び退って、これをかわす。
蓮が口火を切り、二の鳥居の戦いが始まった。
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