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052 大混戦
しおりを挟む大太刀が閃き、切っ先が疾駆。
斧による旋風が荒れ狂い、鋼糸が乱舞し、それらを雷光が照らす。
敵味方が入り乱れ、化生どもの異能が飛び交う大混戦が勃発。
剣戟と怒号が渦巻き、衝突の火花が散る。空気が打ち震え、摩擦により焦げた臭いまでもが漂う。
攻撃と攻撃がぶつかる度に響く音が重い。
ひたすら量産されるのは破壊、破壊、破壊……
たちまち十四階フロアは壊滅状態となった。
まるでガス爆発でも起こったかのような惨状にて、無傷なところなんぞは数えるほどしか残っていないのではなかろうか。
この惨状を前にして、精神体となっている千里はハラハラしながら見守るしかない。
そのうちに、このままだとマズイと考えた宮内さんが「粟田くん!」と呼びかけ、くいと顎で示したのは、天井の穴。
暴れる婀津茅が斧で開けたものだ。
宮内さんの意図を察した一期はうなづき、柱の一本を斬り倒すなり、きびすを返す。
これ以上は付き合いきれないので、さっさと先へ行こうとする。
「はんっ、逃がすかよ」
行く手を阻む柱を婀津茅が粉砕し、すかさず夾竹が「喰らえ!」
鋼糸を一期の背へと目がけて飛ばそうとするも、そのタイミングでスッと割って入ったのは宮内さんであった。
宮内さんがパチンと指を鳴らすなり、婀津茅らの顔前でカッと眩い光が生じる。
目くらまし!
光はすぐに収束したものの、その時にはもう一期たちの姿は十四階より失せていた。
◇
夕凪組チームは暁闇組チームの猛攻をかわし、十五階へと到達する。
この階にある渡り廊下を通って、隣のビルへと移動しなければならない。
しかしそんなところで追いつかれたら、第一幕の二の舞だ。
一行は先を急ぐ。
なお背後から婀津茅と夾竹が猛追しているので、憑依は解かない。
いよいよ次の角を曲がれば渡り廊下――
という段になって、廊下の奥より飛び出して来る者がいた。
銀の長髪をなびかせて走るは、星華だ。
単身にて、そばにルイユの姿はない。
彼女はこちらを一瞥もせず、疾風のごとく反対側へと走り去っていく。
ついに追いつかれたばかりか、逆転をも許してしまった。
とはいえ、まだ両チームの差はほとんどない。
だから夕凪組チームもすぐに渡り廊下を通過しようとするも、半ばまで進んだところで、婀津茅と夾竹に追いつかれてしまう。
とてもではないが逃げきれそうにない。
「しょうがありませんね」と宮内さん。
「やれやれ、こういうのは柄じゃないのですが仕方がありません。ここは私が引き受けましょう。あなたたちは先へ行ってください」
一期は無言でうなづき、走り出す。
させじとその背を狙う夾竹であったが、いくつも飛ばした糸の斬撃はすべて途中で焼き切れてしまった。
バチッと小さな雷が落ちたせいだ。
もちろん雷獣である宮内さんのやったこと。
「ふんっ、たったひとりで、あたいたちの相手をしようっていうのかい? これまたずいぶんとみくびられたもんだねえ」
鼻を鳴らす婀津茅がズイと前に出る。
たいそう不満気な鬼女。
宮内さんは眼鏡をはずし、上着の胸ポケットへとしまいつつ。
「べつにそんなつもりは毛頭もありません。ですが、みくびっているのは貴女たちも同じなのでは?
じつは私の雷は少々じゃじゃ馬娘でしてね、扱いがとても難しいのですよ。味方が近くにいると、うっかり巻き込みかねないので」
言うなり、宮内さんが先ほどまでとは桁違いの蒼光をまとう。
直後、渡り廊下全体が眩い光に包まれ、凄まじい雷鳴が轟き、弥栄ツインタワーズ全体がビリビリと震えた。
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