乙女フラッグ!

月芝

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051 鬼女、襲来!

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 鬼女・黒塚婀津茅、襲来!

 一期と千里は迷うことなく憑依を発動し、すぐさま臨戦態勢となる。
 だが、いつものごとく精神体となった千里は肉体の主導権を一期に渡すと、外部へとはじかれてしまった。
 残念ながら特訓アルバイトの成果はなかったようである。
 もっとも、たった二日間、バイト仲間として共に過ごしたぐらいで親和性がグンと高まったら、世の誰も他人とのコミュニケーションで頭を悩ませたりはしないだろうが。

 ドンッ!

 婀津茅が一歩踏みしめるごとに、冗談みたいな音がして床が震える。

 ぶぅうぅぅん!

 婀津茅が斧を振れば、これまた冗談みたいな音がして暴風が吹く。
 いかにビル内の通路が広めに設計されているとはいえ、それはあくまでも人間サイズでだ。
 大柄な鬼女の体にとっては、やや手狭。
 それが巨斧をぶん回しているのだから、なおさらだ。
 たちまち床が抉れ、天井が裂け、壁が砕ける。
 婀津茅を中心にして破壊がまき散らされる。
 こんなものをまともに受けては身がもたない。
 だから一期=千里は斧の斬撃をかわし、かわし、ときに打ち上げては軌道をそらし、いなす。
 けれども、なかなか反撃には移れない。
 婀津茅の攻め手が苛烈なせいもあるが、乱雑に見えて、隙らしい隙がほとんど見当たらず。
 この鬼女……力だけではない。
 刃が胴体へと向かってくる、斧による横薙ぎ。
 これはいなせない。飛び退って回避する一期、だが――

「っ!」

 着地寸前に顔へと飛来したのは砕けた壁の欠片、婀津茅の仕業だ。
 豪快な斧による乱撃の合間に、婀津茅はちょいちょい小技を挟む。これがまた絶妙に厭らしい。
 とっさに一期は大太刀を縦に構え、欠片を防ぐ。
 けど、そこへ間髪入れずに婀津茅の足がのびてきた。
 鋭い蹴撃!
 腹に蹴りを受けた一期、その身が弾丸みたいに吹き飛び、後方にあったどこぞの会社のオフィスの入り口にぶつかり、扉ごと奥へと消えた。
 そこへ婀津茅がさらなる追撃を放つ。 

「ははは、この程度でくたばるんじゃないよ。もっとあたいを楽しませな」

 笑いながら婀津茅が斧を力任せにぶん投げる。
 ギュンギュン横回転する斧が宙を疾駆し、入り口付近を粉砕しながら室内へと呑み込まれた。

 一連のやりとりを宙に浮遊して見守っていた精神体の千里は、慌てて一期のもとへと駆けつけようとするも、部屋の入口のところではっとしてふり返る。
 動きを止めていたのは婀津茅も。
 ふたりの視線の先にいたのは宮内さんである。
 斧と刀、一期と婀津茅が斬り結び始めてから、邪魔をせぬようにと少し離れたところに控えていたのだけれども、そんな彼の身が青白く光っては不気味に明滅している。

 パチ、パチ……バチ……バチ……バチバチバチバチバチ…………

 髪を逆立て、体の表面を小さなイナヅマが幾筋も走り回っていた。
 宮内さんが放電している!
 クール系イケメン弁護士が一変して、ド派手なパンクイケメンに。
 この変貌に目を細め婀津茅が言った。

「きさま……雷獣だったのか」

 雷獣。
 激しい雷雨の日に雲に乗っては天空を駆け、落雷とともに地上にあらわれるという妖。
 日本各地に伝承を残しており、源頼政に退治されたという鵺の正体も、じつは雷獣であったのではとの説もある。

 大小の放電を繰り返していた宮内さんが、ダンっと床を踏み駆け出す。
 蒼いイカヅチが、いっきに婀津茅へと肉迫する。
 これを鬼女は臆することなく拳でもって迎え討つ。
 振り下ろし気味に突き出される豪腕は、たとえ斧がなくとも脅威の破壊力を持つ。宮内さんが異能を発動した状態とはいえ、まともに喰らえばただではすまないだろう。

 轟っ! 唸る拳は狙いあやまたず。接近する宮内さんの頭部を的確に捉えていた。そのままいっきに叩き潰すつもりなのだ。
 だがしかし――

「ん?」

 拳が砕いたのは宮内さんの頭部ではなくて、床であった。
 空振り!
 当たる寸前に宮内さんがさらに加速――からの、急制動による軌道変化。
 直線に進んでいたのが、カクンと鋭角に折れたとおもったら、ほんの数歩だけ進み、すぐさま切り返す。
 ジグザグな動きは、雷光のごとし。
 右、左、右、壁、天井、床……通路内を縦横無尽、緩急自在にてイカヅチが閃き、駆ける。

 あまりの速さに婀津茅は目で追うのがやっと、気づいた時には背後をとられていた。
 慌ててふり返っては蹴りを放つ婀津茅であったが、それをもかわされたところにのびてきたのは、宮内さんの右腕である。
 むんずと掴んだのは、婀津茅の不揃いな二本角のうちの長い方。

「よくもうちの事務所があるビルで好き勝手に暴れてくれたな。こいつはその礼だ、たっぷり受け取ってくれたまえ」

 言うなり、宮内さんがいっそう輝きを増し――ピカゴロ、ドカン!
 直接雷を落とされた婀津茅の全身が雷光に包まれる。

 雷は電力に換算すると、数千万から数億ボルトに匹敵するといわれている。
 たった一発で二千世帯以上もの電力一日分に相当する。
 凄まじい力だ。もしも活用できたら現代文明が抱えるエネルギー問題なんぞはすぐに解消されるだろう。

 そんなシロモノを直に注ぎ込まれたのだからたまらない。
 ぷすぷすと全身から白い煙をくゆらせ、婀津茅は立ったまま白目をむいている。
 一方で攻撃を仕掛けた宮内さんは、まとっていた蒼光が消えており、素の状態に戻っていた。
 さしもの鬼女もこれまでか。
 そうおもわれたところで、婀津茅の指先がピクリ。
 宮内さんはすぐさま後退し距離を取る。

「……これだからデリカシーのない鬼は」

 信じられないことに婀津茅は生きていた。
 しかし倒れこそしないものの、すぐには動けそうにない。
 だから宮内さんは、トドメを刺そうとふたたび雷光を溜め始めたのだけれども、これを邪魔する者があらわれる。

 ヒュン、飛んできたのは鋼の糸。

 絡新婦の妖である小柴夾竹。
 どうやら婀津茅の後を追ってきたらしい。
 エントランスホールでの足止めのお返しとばかりに、暁闇組チームがここで二強を投入してきた。
 これにより戦いは、妖刀、雷獣、鬼、蜘蛛が入り乱れての大混戦へと突入する。


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