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048 アロハ攪乱
しおりを挟むエントランスに銅鑼の音が鳴り響く。
旗合戦、開始の合図だ。
まず大勢いた来場者たちが消えた。
喧騒も途絶える。
続いて屋内の照明がブツンと一斉に落ち、非常灯へと切り替わる。
やや薄暗いものの視界はそれほど悪くはない。
ビルの外に目をやればそちらも暗かった。
陽が暮れて夜になっている?
大禍刻は、世界がズレた狭間に位置している凍った時間。
ある種の結界、隔離された空間であり、術者の意向によって時間帯や環境をある程度好きに弄れるがゆえの芸当だ。
毎度のことながら、この雰囲気にはちっとも馴れない。
戸惑う千里を横目に、真っ先に動いたのは意外な人物であった。
いつの間にか火をつけていた葉巻をくわえ「ちょいとここで時間を稼ぐ……、おまえたちは先に行きな」と言ったのは万丈だ。
アロハシャツのおっさんがブハァ~、煙を吐く。
万丈の正体は化けタヌキ、得意技は幻術だ。葉巻の煙を利用して、文字通り相手をたぶらかし煙に巻く。
吐いた煙がたちまち何倍にも膨れあがった。まるで生きているかのように動き、暁闇組チームへとまとわりつく。
星華たちは煙を振り払おうとするも、相手は手応えのない霞のようなものにて、ままならず。
その隙に万丈が素早く印を結ぶ。
「おのれ、させるかっ!」
夾竹が鋼糸を放ち、術の発動を邪魔する。
ばかりか、ついでに千里たちもまとめて薙ぎ払おうと目論む。
切れ味抜群の鋼糸が一閃。
チュィンとかん高い音がして、ズズズ――斜めにズレ落ち始めたのは時計台。噴水も同様の運命を辿る。鋼糸による斬撃は夕凪組チームの身をも撫で斬りにする。
が、直後のこと。
斬られたはずの万丈や千里らの姿が揺らぎ、ぼやけて消えた。
少しばかり遅かった。
万丈の術が先に発動していたのだ。
これにより暁闇組チームは、幻術に囚われ、スタート直後に足止めを食うことになった。
◇
第四幕は弥栄ツインタワーズを舞台にしての、タワーランニング勝負。
サウスビルから夕凪組チームが、ノースビルからは暁闇組チームがスタートする。
しかしそのまま上に行くのではなくて、中層にある渡り廊下にて、双方が隣のビルへと移動し、屋上の空中庭園展望台を目指すコースになっている。
当然ながらエレベーターは止まっており使えない。
上へ行くには、自分の足でのぼるしかない。
仲間を先へ行かすために、ひとり残った万丈。
どうやら端からそういう作戦であったらしい。
これまでは向こうから仕掛けられるばかりだったので、たまにはこちらから一発かます。
知らぬは千里ばかりであった。
宮内さんに先導されながら、駆ける千里が「それならそうと、どうして前もって教えてくれなかったのよ」と頬を膨らませれば、隣を走る一期が「……センリはすぐ顔にでる」とバッサリ。
「すみません甲さん。それに作戦とはいってますが、あれは万丈が自分から言い出したことでして」
と、宮内さん。
万丈はアロハシャツの腰痛持ちのおっさん。
愛煙家にて、持久走、それも階段をひたすらのぼるようなハードな競技にはむいていない。
にもかかわらず、第四幕に抜擢されたのは万丈の異能が、屋外よりも屋内と相性がよかったから。
「でも本当にひとりで大丈夫かな?」
うしろをチラチラしつつ、千里は心配する。
いかに優れた術者とて、敵チームをまとめて相手にするのは無茶が過ぎるような気がする。もしも幻術が破られたら、よってたかって袋叩きだろう。
とはいえ、いまさら戻るわけにもいかない、ここは万丈を信じて任すしかない。
だから千里たちは先を急いでいたのだけれども……
「なるほど、こうきましたか」
はたと立ち止まった宮内さん。
千里と一期も止まって、ぱちくり。
サウスビル内を三階まで順調に先行していた夕凪組チームであったが、ここで足踏みを余儀なくされる。
なぜなら、あるはずの通路が無くなっていたから。壁が行く手を遮っている。
パンフレットの案内図ではたしかに経路となっているのに、それが失せていた。
誤表記ではないことは宮内さんが断言する。
――意図的な改変。
おそらく、ここだけということはないだろう。
ビル内の構造が変えられており、迷宮化している!
このタワーランニング……、どうやらひと筋縄ではいかないらしい。
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