47 / 72
046 弥栄ツインタワーズ
しおりを挟む仲良く並び立つ、ふたつのビルディングがある。
完璧なシンメトリーにて、一卵性双生児がごとき威容なのは、市内で一番背が高い建築物である弥栄ツインタワーズだ。
地下三階、地上三十三階建て、高さ170メートルを誇り、下層には商業施設、中層には様々な業種の会社のオフィスが入っており、上層は居住スペースとなっている。
ふたつのビルは中層にある渡り廊下と、屋上にある空中庭園展望台により繋がっており、市内を一望できるので、屈指の眺望スポットとしてカップルや家族連れに人気だ。
弥栄ツインタワーズが旗合戦の第四幕の舞台となる。
第一幕はいきなりスタートした。
第二幕は事前に告知がきた。
第三幕は正式な告知こそはなかったものの、なんとなく情報が漏れていた。
そして第四幕なのだが、今回はわざわざ招待状が届く。
日付と時刻、場所のみならず、勝負内容についても記されてあった。
第四幕はタワーランニング勝負。
タワーランニングとは、階段垂直マラソンともいわれており、ようは超高層ビルを駆け上がるスポーツである。
弥栄ツインタワーズのサウスビルから夕凪組チームが、ノースビルからは暁闇組チームが。
スタートの合図とともに、双方一階の共同エントランスホールから屋上の空中庭園展望台を目指すのだけれども、たんに上を目指すだけではない。
途中、渡り廊下にて隣のビルへと移動するコースとなっている。
つまりタイミング次第では、渡り廊下と屋上の二ヶ所でかち合うことになるのだ。
また今回は参加人数にも制限が設けられてある。
双方、参加できるのは旗役の乙女を別にして、三名まで。
よって夕凪組チームからは、相談の上で粟田一期、平万丈、宮内啓一郎が参加することに決めた。
一期は千里の相棒兼護衛役として、万丈は相手を煙に巻く能力が外よりも屋内で実力を発揮するので、そして宮内さんはこのビル内部に詳しいという理由により選出される。
なんと! 宮内さんが所属する宗像法律事務所は近在きっての大手にて、このビル内にオフィスを構えていたのだ。よって彼にとってはこの双子ビルはホームみたいなもの。なんとも心強い。
あとどうして宮内さんだけ苗字呼びなのかといえば、彼の職業やら立ち居振る舞いから、なんとなくである。
◇
蓮にクルマで現地へと送迎してもらっている途中――
助手席には万丈が座り、千里と一期は後部座席にいる。宮内さんとは現地で合流する予定だ。
窓ガラスにぼんやりと映る一期の姿を千里はチラ見。
……思い返すのは、千里が琥珀館でアルバイトをしているときに、お店へとやってきた黒塚婀津茅のことである。
旗合戦が開催されている間、試合外での相手チームの旗役への接触は禁じられている。
なのに彼女は堂々とこちらの拠点に単身乗り込んできた。
が、婀津茅の目的は旗役の乙女である千里ではなくて、一期であった。
第二幕にて邂逅したおりに、彼女はこう言っていた。
「今度しっぽり殺り合おうぜ」と。
それを踏まえた上で婀津茅は一期に告げる。
「次はあたいも出る。だからお前も必ず出ろ。さもないと……」
琥珀館名物、熱々のマズイ珈琲を顔色ひとつ変えずに呑みながら、婀津茅が視線を横へとずらし、千里の方を見た。
運営が定めたルールなんぞ知ったこっちゃない。
わざわざ続きを口にするまでもなく、その目がありありと語っていた。
対して一期は「……わかった」とだけ。
その返事に満足したのか、婀津茅は珈琲を飲み干すと、コートのポケットから無造作に取り出した万札をカウンターに置き、悠然と店を出て行った。
あの時のことを考えつつ、千里は隣に座る一期に声をかける。
「ねえ、向こうからは誰が出てくるとおもう? あの鬼女は確定として……」
残りふたりのメンバーが問題だ。
現在、暁闇組チームの五人のメンバーで判明しているのは、女郎蜘蛛の小柴夾竹、首切り馬の迅劉生、エセ神父のルイユ・クロイス、鬼女の黒塚婀津茅の四名。
第三幕の七曲霊園にて、ちょっかいを出してきた者の正体はいまなおわかっていない。
けれども自身は姿を見せずに、木人らをけしかけるやり口により、なにやら万丈には思い当たる相手がいるようだが、確証を得るまではその名を明かすつもりはないとのこと。なぜなら下手な思い込みや、情報に誤りがあると、いざというときに取り返しがつかないから。
もっともなので、千里もあえてそれ以上は追求していない。
「……誰が出てこようとも関係ない。邪魔をするのなら全員返り討ちにするだけだ」
一期はムスっと腕組みにて目を閉じたまま、そう答えた。
あいかわらず会話がろくに続かない。
どうやら特訓の成果はあまりなかったようである。
千里は内心で、ダメだこりゃ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中!
【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。
ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。
でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。
冷たい舌
菱沼あゆ
キャラ文芸
青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。
だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。
潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。
その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。
透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。
それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる