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046 弥栄ツインタワーズ
しおりを挟む仲良く並び立つ、ふたつのビルディングがある。
完璧なシンメトリーにて、一卵性双生児がごとき威容なのは、市内で一番背が高い建築物である弥栄(いやさか)ツインタワーズだ。
地下三階、地上三十三階建て、高さ170メートルを誇り、下層には商業施設、中層には様々な業種の会社のオフィスが入っており、上層は居住スペースとなっている。
ふたつのビルは中層にある渡り廊下と、屋上にある空中庭園展望台により繋がっており、市内を一望できるので、屈指の眺望スポットとしてカップルや家族連れに人気だ。
弥栄ツインタワーズが旗合戦の第四幕の舞台となる。
第一幕はいきなりスタートした。
第二幕は事前に告知がきた。
第三幕は正式な告知こそはなかったものの、なんとなく情報が漏れていた。
そして第四幕なのだが、今回はわざわざ招待状が届く。
日付と時刻、場所のみならず、勝負内容についても記されてあった。
第四幕はタワーランニング勝負。
タワーランニングとは、階段垂直マラソンともいわれており、ようは超高層ビルを駆け上がるスポーツである。
弥栄ツインタワーズのサウスビルから夕凪組チームが、ノースビルからは暁闇組チームが。
スタートの合図とともに、双方一階の共同エントランスホールから屋上の空中庭園展望台を目指すのだけれども、たんに上を目指すだけではない。
途中、渡り廊下にて隣のビルへと移動するコースとなっている。
つまりタイミング次第では、渡り廊下と屋上の二ヶ所でかち合うことになるのだ。
また今回は参加人数にも制限が設けられてある。
双方、参加できるのは旗役の乙女を別にして、三名まで。
よって夕凪組チームからは、相談の上で粟田一期、平万丈、宮内啓一郎が参加することに決めた。
一期は千里の相棒兼護衛役として、万丈は相手を煙に巻く能力が外よりも屋内で実力を発揮するので、そして宮内さんはこのビル内部に詳しいという理由により選出される。
なんと! 宮内さんが所属する宗像法律事務所は近在きっての大手にて、このビル内にオフィスを構えていたのだ。よって彼にとってはこの双子ビルはホームみたいなもの。なんとも心強い。
あとどうして宮内さんだけ苗字呼びなのかといえば、彼の職業やら立ち居振る舞いから、なんとなくである。
◇
蓮にクルマで現地へと送迎してもらっている途中――
助手席には万丈が座り、千里と一期は後部座席にいる。宮内さんとは現地で合流する予定だ。
窓ガラスにぼんやりと映る一期の姿を千里はチラ見。
……思い返すのは、千里が琥珀館でアルバイトをしているときに、お店へとやってきた黒塚婀津茅のことである。
旗合戦が開催されている間、試合外での相手チームの旗役への接触は禁じられている。
なのに彼女は堂々とこちらの拠点に単身乗り込んできた。
が、婀津茅の目的は旗役の乙女である千里ではなくて、一期であった。
第二幕にて邂逅したおりに、彼女はこう言っていた。
「今度しっぽり殺り合おうぜ」と。
それを踏まえた上で婀津茅は一期に告げる。
「次はあたいも出る。だからお前も必ず出ろ。さもないと……」
琥珀館名物、熱々のマズイ珈琲を顔色ひとつ変えずに呑みながら、婀津茅が視線を横へとずらし、千里の方を見た。
運営が定めたルールなんぞ知ったこっちゃない。
わざわざ続きを口にするまでもなく、その目がありありと語っていた。
対して一期は「……わかった」とだけ。
その返事に満足したのか、婀津茅は珈琲を飲み干すと、コートのポケットから無造作に取り出した万札をカウンターに置き、悠然と店を出て行った。
あの時のことを考えつつ、千里は隣に座る一期に声をかける。
「ねえ、向こうからは誰が出てくるとおもう? あの鬼女は確定として……」
残りふたりのメンバーが問題だ。
現在、暁闇組チームの五人のメンバーで判明しているのは、女郎蜘蛛の小柴夾竹、首切り馬の迅劉生、エセ神父のルイユ・クロイス、鬼女の黒塚婀津茅の四名。
第三幕の七曲霊園にて、ちょっかいを出してきた者の正体はいまなおわかっていない。
けれども自身は姿を見せずに、木人らをけしかけるやり口により、なにやら万丈には思い当たる相手がいるようだが、確証を得るまではその名を明かすつもりはないとのこと。なぜなら下手な思い込みや、情報に誤りがあると、いざというときに取り返しがつかないから。
もっともなので、千里もあえてそれ以上は追求していない。
「……誰が出てこようとも関係ない。邪魔をするのなら全員返り討ちにするだけだ」
一期はムスっと腕組みにて目を閉じたまま、そう答えた。
あいかわらず会話がろくに続かない。
どうやら特訓の成果はあまりなかったようである。
千里は内心で、ダメだこりゃ。
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