乙女フラッグ!

月芝

文字の大きさ
上 下
42 / 72

041 樹木子

しおりを挟む
 
 左耳の穴の奥――
 大木人の弱点である若芽の位置は特定された。
 しかし場所は巨人の側頭部という高いところ、地上からでは届かない。
 そこで……

「悠人、いけるか?」

 一期が訊ねれば「人使いが荒すぎる!」との文句が返ってきた。
 とはいえそれも無理からぬこと、なにせ悠人はいま、大量の木人らを相手取っては、たったひとりでこれを食い止めていたのだから。

「もう、ようはデカブツの頭を下げさせればいいんだろう。だったら、これでどうだ!」

 群がる木人らの相手をしつつ、悠人が大木人の方に視線を送り異能を発動する。
 悠人の異能は視界内の任意の場所に、自分以外の者には見えない透明なブロックのようなものを出現させるというもの。

 ちょうど一期=千里を踏もうとしていた大木人、その足が不自然な位置で止まった。
 高さは膝より少し下ぐらいのところ、悠人の仕業であった。
 その位置に見えないブロックを並べて壁を造り、足を下ろせないようにしたのである。
 片足立ちで制止することになった大木人、そんな不安定な状態で足場がいきなり崩れたもので、グラリと前へつんのめる。
 巨体ゆえにいったん傾くとどうしようもない。
 とっさに手をつきどうにか転倒はまぬがれたものの、四つん這いでうつむく格好となってしまった。
 これにより頭部が地面近くにまで下りてきた。
 そこを一期が大太刀にて狙う。ダンッと足を踏みしめ放ったのは、刃を水平にしての諸手突きだ、いっきに耳の穴を抉ろうとする。
 が、突きは決まらず。
 大木人が左腕を動かし、手で耳元を守ったのだ。

 ぶ厚い手の甲に阻まれ、突きが途中で止まってしまった。切っ先がほんのわずか、向こう側へ突出するも貫通しきれず。
 されどここで一期が素早く半身を引きながら、刺さっていた大太刀をすっと引き抜く。
 そして再びの、突き!

 突く――引き斬る――突く。

 流れるような三連の動作。
 しかも第一突と寸分たがわぬ箇所へ、瞬時に第二の刃を深々と突き入れる。
 さらには大太刀の柄尻に掌底でのダメ押しの一撃をも加えられた。
 大太刀による四連撃が手の甲に穴を穿つ。
 完全に貫通した刃が大木人の耳の奥へと侵入し、若芽をぶつんと断ち切ることに成功した。

 大木人はしばし痙攣をしたのちに活動を停止した。
 それを見届けてから、一期は大太刀を回収するも戦いはまだ終わらない。
 すぐさまきびすを返し、悠人の加勢に走る。

 数が多かったもので残敵を掃討し終えるのに少々手間取った。
 結局、最後まで木人らを操っていた首魁は姿をあらわさず。おそらくは安全なところから戦いの様子を見ていたのであろうが、とにかく徹底している。そして悔しいが敵の術中にハマった、すでに足止めには十分過ぎる時間が経過している。

(さすがにもうダメかもしれない……)

 千里ら三人は重い足取りにて、最後の試練が待つ場所へと向かった。

  ◇

 三人の足音が次第に遠ざかっていく。
 完全に聞こえなくなったところで大木人の骸がガラガラと瓦解し、なかからムクリと起き上がったのは和装に鼠色の角袖の長羽織りを着た老爺である。
 背は低く腰はやや曲がっている、つるりとした頭は長い、灰色の長い顎髭をたくわえており、眉毛も灰色をしている。一見すると七福神の福禄寿に似ていなくもないが、細目の奥には邪悪な光が宿っていた。
 この老爺、名を朽木杢阿弥くちきもくあみという。
 暁闇組チームのメンバーにて、その正体は樹木子じゅぼっこという妖であった。

 樹木子は、戦場跡などに生えた古木が変じた化生にて、人の生き血や悲鳴を好物とし、杢阿弥の能力は先の通り。

「ふぇ、ふぇ、ふぇ、ふぇ、小僧どもめ、おもいのほかやりおるわい。若いだけあって活きがよい。だがあの程度では、夾竹や劉生はともかく婀津茅にはとてもかなうまいて。
 それにルイユ殿もそろそろ腰をあげるというておったから、まぁ、次あたりでせっかくの祭りも終いかのぉ。
 ……にしてもあの一期という者、どこかで見たような。
 はて? どこであったか……」

 首を傾げ記憶を辿る杢阿弥であったが、いかんせんずいぶん長いこと生きているもので、憶い出すだけでも難儀する。
 そのうちにも老爺の姿がずぶずぶと地面に沈んでいく。
 これに合わせて、周囲に散乱していた木人らの残骸もたちまち萎れ、朽ちてはボロボロとなり、あらかた土へと還っていった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...