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035 お手玉
しおりを挟む挑戦すること十三回目にして、ようやくダルマ落としをクリア。
ずいぶんと星華に遅れをとってしまった。
千里と悠人は、次に指定された場所へと急ぐ。
が、そこに星華の姿はなかった。
すでに試練をクリアして、先へと向かっていたのである。
追いつくどころかジリジリと引き離されている。千里たちは焦りを禁じ得ない。
第三の試練はお手玉。扱う数は三つで、わらべ歌の「一番はじめは一の宮」を歌いながら、十巡させるというもの。
「えーと、ごめんなさい。はじめの一宮だっけ? その歌、知らないんだけど」
千里が正直に白状すれば、担当の涅子がカンペを用意してくれた。
なお今度の子の尻尾は白。
わらべ歌の歌詞は次のような内容であった。
一番はじめは一の宮
二また日光中禅寺
三また佐倉の惣五郎
四はまた信濃の善光寺
五つは出雲の大社(おおやしろ)
六つ村々鎮守様
七つは成田の不動様
八つ八幡の八幡宮
九つ高野の高野山
十で東京心願寺
にゃんにゃん♪
カンペにはまだ続きがあったものの、歌うのはここまででいいらしい。
最後まで記されていたのでざっと目を通してみるも、これがけっこうシビアな内容であった。
詳細はあえて割愛するが、胃がズンと重くなる慟哭ものであるとだけ。
それから最後のにゃんにゃんはオリジナル要素とのこと。
歌いながらお手玉をする。
同時にふたつのことをこなすのは、けっこう難しい。
……はずなのだが、ここで千里が意外な才能を発揮する。
お手玉の試練をさほど時間をかけずに攻略してしまったのだ。
「さっきはダルマ相手にあんなに苦労していたのに……とても同じ人間とはおもえねえ。やるじゃねえかセンリ、ちょびっとだけ見直したぞ」
「うん、自分でもびっくりしてる。でもなんでだろう?」
悠人に褒められた当人が一番驚いている。
もともと剣道をやっているだけあって動体視力はいい方であったが、もしかしたら一期との憑依の影響かもしれない。
が、とにもかくにもグズグズしてはいられない。
すぐに星華を追わなければ……
◇
夕陽を受けつつ無人となった七曲霊園をあっちこっち、奔走させられる千里たち。
そのうちに硯のような黒い墓が集まっている区画へと入った。
ここいらは大陸系が集まっている地域だ。
ところや信仰、文化が変われば墓石の好みも変わる。
その区画の中心には黄土色の瓦屋根で、壁は白塗り、柱や戸は鮮やかな朱色という赴きある中華風の霊廟が建っている。そこが次なる目的地だ。
霊廟の門をくぐった先にあるのは、ひらけた石畳の前庭。
そこでは熾烈な戦いが繰り広げられていた。
キュイィィィン!
高速で回るのは小さな丸い鉄の塊、ベーゴマである。
ベーゴマは独楽の一種だ。かつては子どもたちの間で盛んに行われていた遊びのひとつ。
ケンカ独楽スタイルにて対戦し、負ければベーゴマを相手に取られてしまうというシビアなルールが主流であり、当時の子どもたちはこの遊びを通じて、厳しい勝負の世界を知り、また賭け事の恐ろしさを学んでいたとかいないとか。
バケツに布を張った遊技台の上で、ふたつのベーゴマが火花を散らしては、しのぎを削っている。
対戦しているのはタヌキのような尻尾をした涅子と星華だ。
遅れてやってきた千里たちそっちのけで、涅子と星華は遊技台に集中している。
ぶつかっては離れ、ぶつかっては離れ、またぶつかり、ときにすれ違っては距離をとり、周遊にて隙をうかがう。
チュイン、チュインと鋭い音、何度も衝突を繰り返しては一進一退、息詰まる攻防が続く。
でも、唐突に決着を迎える。
いきなり均衡が破れたとおもったら、片方が台からはじき飛ばされてしまった。
カツンと音を立てて石畳に転がるベーゴマを拾い、「くっ」と悔しそうに握りしめたのは星華であった。
一方で勝ち残った涅子のベーゴマは、依然として悠々回り続けている。
第四の試練はベーゴマ対決。
タヌキ尾の涅子を倒さねばならぬらしい。
(この子……かなりデキる!)
どうやらお遊びはこれまでにて、ここからが本番らしい。
千里は黒子の格好をした小さな巨人を前にして、ごくりとツバを呑み込んだ。
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