乙女フラッグ!

月芝

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028 義の章、終局

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 のっぽな灯器、備え付けの鉄梯子をよじ登る。
 ライト部分に左手で触れると腕輪が淡く光った。
 腕輪にある五つの珠、そのうちのひとつに青い炎がぽっと灯り、義の文字が浮かびあがった。

「よし、チェックポイント、クリアっと」

 梯子を降りた千里は、うな垂れたままの星華に声をかけようとするもやめた。
 プライドの高い彼女のことだ。いまの自分の顔を誰にも見られたくないはず、だからそのまま黙って灯室をあとにする。
 部屋を出てすぐのところに一期はいた。

「そこまで来てるんだったら、入ってくればよかったのに……。っていうか、もしかしてずっと見てた?」
「いや、途中からだ。なんとなく入りそびれてな」
「ふ~ん、なんとなくねえ」

 千里が胡乱げな眼差しを向けると、一期はくるりと背を向けてさっさと階段をおりていく。
 おそらく一期は星華の発言を耳にしていたのだろう。それで気まずくて入ってこれなかったのだ。
 たしかにはじめて会った時の、一期の態度はけっして褒められたものではなかった。
 もしもあの時、もう少しうまくやっていたら、星華との関係もちょっとはマシになっていたのかもしれない。
 とはいえ過ぎたことをクドクド考えてもしょうがない。
 いま一度、灯室の方をふり返ってから千里は歩き出した。

  ◇

 灯台を出て丘をくだり、一本橋のたもとまで千里たちは戻ってきた。
 その姿を目にするなり「あー、ヤメだヤメ」と言ったのは、一本橋で蓮と戦っていた劉生である。
 近づいてくるふたりの様子から、すべてを察したのだろう。
 すでに今回のゲームの勝敗は決した。ならばこれ以上、面倒なヤツの相手を続ける必要はない。
 まとっていた蒼い炎が消えた、だだ漏れであった殺気や妖気も霧散し、劉生が拳をおろす。
 じつにあっさりしたものにて、これには対峙していた蓮も「ふぅ」と安堵の吐息を零す。
 実際のところ、狭い橋の上にて周囲が水という地の利があったからこそ、堂々と渡り合えていたが、これがもしも自由に動けるひらけた場所であったならば、かなり危なかっただろう。
 それほどまでに劉生は強かった。
 が、どうやら彼は単純な殴り合いよりも、スピードを競う勝負に強い関心があるらしい。

 脱ぎ捨ててあった革ジャンを拾い、劉生が小島の方へと歩き出す。
 島側の橋のたもとで千里らとすれ違う際に――

「うちのお嬢は?」
「たぶん、まだ灯台のてっぺんにいるはず」

 劉生から訊ねられて、千里はそう答えた。
 すると劉生はしげしげと千里の顔を眺めてから、にやり。

「そうか……。にしても、まさかうちのお嬢がこんなちんくしゃに負けるとはねえ。やるじゃねえか、ガハハハ」

 劉生は千里の頭に手をのばすなりワシャワシャ撫でまわす、ゴツイ手であった。
 悪気はないのだろうけど首がもげそうな勢い、見かねて一期が止めに入る。

「さてと、じゃあ俺はお嬢を迎えに行くとするか。今夜は楽しかったぜ、またいっしょに走ろう」

 蓮にひと声かけてから、劉生は灯台へと向かった。
 のしのし遠ざかる大きな背中を見送りつつ、千里は隣にいる一期に「ねえ」と声をかける。

「なんだか気のいい親戚のオジさんみたいで、いい人っぽいんだけど。陰険な蜘蛛女とは大違い。もしかして暁闇組っていっても、じつはいろんなのがいたりするの?」
「あー、まあな。蜘蛛女――小柴夾竹を最悪だとすれば、首切り馬――迅劉生は最良とまではいわないが、かなりマシな部類であるのはたしかだ」
「ふーん、なのにどうして暁闇組に協力しているんだろう」
「さぁな」一期は肩をすくめる。「ずいぶんと走り回るのが好きみたいだから、狩り場の解禁ついでに、道路の速度制限の撤廃とかが目当てなのかもな」

 それはそれで迷惑な話である。
 やはり、この旗合戦、絶対に負けるわけにはいかない。
 千里はあらためて決意を固めつつ、「おつかれ~」と手を振って出迎えてくれた蓮にニカっと笑顔で応じた。

 旗合戦の五番勝負、第二幕を制したのは夕凪組と千里。
 これで一勝一敗となった。


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