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027 星と亀の一騎討ち 後編
しおりを挟む努力が報われる。
それを心から喜べるのは、努力が必ずしも報われるとは限らないからだ。
上手くいくときもあれば、ダメなときもある。
でもだからこそ価値がある。
けれども鳳星華は違う。
やったらやっただけの成果を得てきた。
手をのばせば必ず目標に届く。
周囲はこれを天才だなんぞと褒めそやすが、なんと虚しいことか。
なにせ掴んだとたんに輝いて見えていたそれは、たちまち色褪せてしまうのだから。
「こんなものなのかしら……なんてつまらないの」
同じことの繰り返し、淡々と過ぎ去る日々。
次期金メダル候補だなんぞとみんなが騒げば騒ぐほどに、星華の気持ちは冷めていく。
そんなある日のことであった。
旗合戦という妖らの調停の儀に巻き込まれたことにより、彼女の退屈な日常は一変した。
星華はいまの状況に「ちょっとワクワクしている」と目尻をさげるも、それが今度はみるみる吊り上がっていく。
「……にしても初めてだったわ。選ばれなかったことなんて、本当に初めて。
それどころか不躾に『邪魔だ、どけ……おまえに用はない』だなんて言われたあげくに、蔑ろにされたのも」
暴言を吐いたのは一期である。
最初の大禍刻のときに、校内でのことだ。
星華はいたくお冠のご様子。
「いや、あれは……。まぁ、たしかにあの時の一期の態度はどうかとおもうけど、でも」
ぶっきらぼうな一期は、ただ夕凪組チームの旗役の乙女である千里を確保すべく動いただけのこと。その言動に他意はない……はず。
だから千里はどうにかとりつくろうとするも、星華は低い声音でぼそり。
「それにしても、どうしてあなたなのかしら? 彼の隣にいるのが」
どうもこうもない。
イベントの運営サイドが振り分けたせいだ。
そしてあの初遭遇の場面で、千里と星華のふたりに最初に接触したのが一期であったというだけのこと。
結果として千里が一期に選ばれたような形にこそなっているが、もしも駆けつけたのが暁闇組チームの小柴夾竹やルイユ・クロイスだったら逆になっていたはず。
というか、ルイユはともかく夾竹だったら、千里はその場で首を刎ねられていただろう。
すべては巡り合わせ、たまたまなのだ。
なのに、青い瞳でにらまれても千里は困ってしまう。
どうやら星華は自分をコケにしてくれた一期に対してのみならず、千里にも含むところがあるらしい。
が、話しはもうおしまいだとばかりに、星華がふたたびレイピアを構えたもので、千里も鉄パイプを構えた。
◇
千里は鉄パイプ越しに星華を見据えている。
すると星華の体が左右にわずかにブレたとおもったら、刺突が飛んできた。
さっきは首元で、今度はより的が大きい腹部を狙ってきた。
これを千里は払って防ごうとする。だが振り払おうとした刹那、クンっと星華のレイピアがしなって軌道が変化した。
切っ先が向かったのは左肩の辺り――フェイント! お腹を狙うと見せかけて本命はこっちであったのだ。
まんまと引っかかってしまった千里はおもいきり身をよじって、どうにか直撃をかわすも肩口を少し斬られてしまった。
ばかりか、勢いに押されて右の壁側へと追い込まれてしまう。
そこを狙いすました星華の追撃が襲う。
サッと華麗なステップにて後退したとおもったら、すぐさま前へと打って出てくる。
低空からの深い踏み込み、そこからすくい上げるかのようにして放たれた突きは、まるで白鳥が湖面から羽ばたくかのように優雅な動きであった。
千里の胸元めがけて切っ先が飛んでくる。
振り払うことも、叩き落すのも間に合わない。
背後と右側は壁にて、左側にならばどうにか逃げられそうが、じつはそれこそが星華が用意した死地。苦し紛れに逃れたが最後、串刺しにされるだろう。
ならばと千里が活路を見い出したのは、前方。
構えた鉄パイプを突き出す。
「よりにもよって、この私に突き勝負を挑むだなんて、笑止!」
フェンシングは突きに特化した競技、剣道とて突きには一家言あるものの、こと突進速度に関してはフェンシングに軍配があがる。
だから星華は己の勝ちを確信しての余裕の笑み。でも次の瞬間、その目が驚愕により大きく見開かれることになった。
なんと! 繰り出した必殺のレイピア、その切っ先が鉄パイプの中へと吸い込まれていくからだ。
幅が三センチにも満たないスリムな細身であるがゆえの芸当だが、もしも切っ先を捉え損ねていたらそれまでの捨て身技。
死中に活を求めるといえば聞こえはいいが、ようは一か八かの大博打であった。
まさかの抵抗にあった星華は、すぐさまレイピアを引き抜こうとするも、させじと千里がより前へ前へ、推して参る。
踏み込みからの鍔迫り合いは剣道の十八番である。
「どりゃ――っ!」
いっきに押し込んでから、千里は鉄パイプを思い切りすくい上げるようにして振った。
「アッ」と星華、レイピアを手放してしまう。
両手持ちと片手持ち、どちらの力が強いのかなんて言わずもがな。
返す刀にて千里の胴薙ぎが決まって一本、勝負アリ!
「だっしゃあぁぁぁぁぁ」
亀の下剋上、拳を突きあげ千里は勝利の雄叫びをあげた。
一方で星である星華はガクリと両膝をつき「そんな……この私が負けたというの……」と呆然自失。
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