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025 灯台モニュメント
しおりを挟む憑依状態の一期が小島に上陸した。なだらかな傾斜の遊歩道を走り抜け、丘の上にある灯台のモニュメントを目指す。
じきに灯台が近づいてきた。
下の部分は外壁がレンガ造りの四角い建物で、その上に六角形の白い灯塔が載っている。
遠目では気づかなかったが、間近に接するとけっこう大きい。二十四、五メートルほどもあろうか。これはマンションだと八階分に相当する。
入り口の方を見れば、ちょうど扉が閉じられるところであった。
閉じるとともに、なかから聞こえてきたのはガッコンという音。
内側のレバーをおろしてドアをロックしたのは星華だ。もちろん後続を締め出すため。
まるで船舶に設置されているかのようなごついスチール製の扉にて、ふつうであればおいそれとは破れない。
が、いまの状態の一期にとって、この程度はなんら障害にならない。
駆け寄るなり鞘より放たれた刃がたちまち扉を三つに切断し、邪魔な残骸を蹴り倒しながら塔内へと突入する。
灯台の内部はほぼ空洞になっており、中央に一本の太い鋼の心柱がとおされている。
一階が機械室で、そこから上階へと行くには内壁沿いの螺旋階段を利用するようになっていた。
タタタという足音が降ってくる。
見上げれば、最上階の灯室へと続く階段を、すでに半分近く登り終えている星華の姿があった。
一期もすぐさまこれを追う、風となり階段を二段跳ばしで駆けあがる。
憑依した一期は超人的な力を発揮する。いかに星華だとて、この状態の一期は振り切れまい。追いつくどころか、いっきに追い抜くことも可能だろう。
だがしかし――
あとほんのちょっと、手をのばせば星華の背に届く。
というところまで追い詰めたところで、不意に一期の膝がガクンと落ちた。視界も二重にブレてぼやける。
憑依という技はたしかに強力だが、いくつか欠点がある。
ひとつは宿主の肉体だけでなく、操者である一期にも多大な負担をかけること。他者を意のままに操り必殺の剣を振るうのは、おもいのほか繊細かつ神経を擦り減らす作業なのである。
一期と千里、互いの信頼と呼吸がピタリと合っていればもっと力を発揮できるのだが、いかんせん出会ってからまだ日が浅いふたりには難しい。
いまひとつの欠点は、そのために生じる無双タイムの制限だ。
今夜は三度も憑依をした。
ひとつひとつの時間は短かろうとも、合計するとけっこうな時間になっている。それに憑依は発動時にこそもっとも大量の妖力を必要とする。
ようはエアコンなどと同じで、じつはこまめに電源のオンオフをするほうが運用効率が悪い。
「……ここまでか。センリ、あとはおまえがやれ」
精神体の千里が強制的に肉体へと戻される。
肩で息をしてはぐったりへたり込んでいる一期を横目に、千里の右手には鉄パイプが握られていた。憑依が解ける直前に、一期が近くの壁の上を通る配管の一部を斬ったモノ。
一期からの餞別だ。
鉄パイプを手に「やるだけやってみるけど、あんまり期待しないでよ」と千里はひとり走りだす。
けっこう走らされているわりに千里がへっちゃらなのは、日頃から部活で防具をつけて走らされているから。
面、小手、胴、垂、胴着、袴、竹刀……
フル装備ともなれば、なんやかやで総重量十キロ近くにもなる。
そんなシロモノを身につけて、動き回っているのは伊達ではない。
「剣道女子ナメんなよ! おりゃーっ」
自分に発破をかけて、千里は足にいっそうの力を込める。
が、無情にもあと一歩届かず。
星華がひと足先に最上階へと到達した。
◇
……負けちゃったの。
またしても星華に遅れをとった。
やはりどれだけ首をのばしても、亀は星に届かないのか。
おもわず立ち止まりそうになった千里であったが、不思議とうつむくことなく、その足は動き続けた。
でも、それが功を奏す。
今回の旗合戦、義のチェックポイントは光源となる灯器である。
灯器は灯台の光りを生成・集中・発射する光学系器械部のこと。
旗役の乙女が、腕輪を装着した左手でライト部分に触れればゴールとなる。先にタッチした方が勝ち。たとえ負けた場合でもチェックポイントに触れなければ失格となり、その時点で旗合戦そのものが終了となるのだけれども……
千里が灯室へと踏み込めば、灯器を見上げている星華の姿があった。
目的のライト部分は直径九十センチの回転式にて、器械の台座の上に鎮座している。
その台座部分の高さが二メートルほどもあって、鉄梯子をよじ登らねばライト部分に手が届かない。
追手が迫っている状況で、梯子をおっちらのぼっていたら背中が無防備となる。
無視して進むか、それとも迎撃し安全を確保すべきか。
勝利をより確実なものとするために、星華が選んだのは後者であった。
千里の方を向いた星華が、優雅な仕草にて携帯しているレイピアを抜く。
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