23 / 72
022 伊白塚公園
しおりを挟む劉生と星華ペアが掟破りのショートカットを敢行する。
そのせいでせっかく追いついたとおもったら、またもや引き離された。
いかに蓮が優れたドライバーで、愛車がラリーカーの名車の市販モデルを魔改造したモノとはいえ、さすがにこれは真似できない。
道なりに進むしかない千里たちは、山の斜面を駆け登っていく星華たちを見ていることしかできなかった。
「はぁ、やられたわ。……っていうか、始まってからこっち、してやられてばかりね」
蓮のつぶやきに、車内の空気がどんより。
ショートカットがどれほどの差を生むのかはわからないものの、確実に勝敗に響くことだけはたしか
旗合戦は五番勝負だが、もしも二連敗となれば相手方のリーチとなる。こちらとしては、もうあとがない。
しぃんとなる車中、アスファルトにタイヤが刻まれる音だけがやたらと響く。
気まずい沈黙に耐えかねて千里が口を開いた。
「え~と、まぁ、それはともかくとして……ずっと気になっていたんだけど、どうして今回は伊白塚公園のアレがチェックポイントに選ばれたのかな?」
目指す伊白塚公園はドーム球場三個半ほどもある、とても広大な公園だ。
自然豊かで敷地内には古墳が点在し、現在は埋め戻されているが弥生時代の住居跡が発見されたこともある。
運動場にテニスコートやアスレチックなども併設されているが、園内でひと際目を惹くのが一角をデンと占めている大きな人工湖である。
もとは沼地であったのを湖にしたというが、その真ん中には小島が浮かんでいる。
小島に向かうには貸ボートを利用するか、湖畔から通されている細い一本橋を渡るしかない。
その島にモニュメントがそそり立つ。
千里がアレといったのは灯台のモニュメント……模したものではない。どこぞより移築してきた本物の灯台である。ちゃんと灯りもつくそうだが、あいにくと千里はまだ見たことがなかった。
どうして今回のチェックポイントに灯台のモニュメントが選ばれたのかが、千里はずっと引っかかっていた。
その疑問に答えたのは一期である。
「……前回は仁で今回は義、義にはいろんな意味がある」
義とは、人間の行動・思想・道徳で「よい」「ただしい」とされる概念であり、正しいとする行いを守ること。
だが本来、義という文字には「外から来て、固有ではないもの」という意味があった。
義手、義足、義父母、義兄弟などの言葉にはそうした意味が含まれ、のちには血縁関係にない仲間同士を結びつける倫理をも指すようになる。
いろんなものを結びつけていくうちに、いつしか「他者と共同で行う第三者のための事業」の意味をも持つようになったという。
「なるほどねえ。だとしたら公園の灯台モニュメントってのは、案外妥当なチョイスなのかもしれないわね」
蓮が感心し、千里もウンウンうなづく。
にしても一期はけっこう博識である。
などと千里が密かにぶっきらぼうな青年のことを見直していると、『この先、百メートル、伊白塚公園』との看板が道端にあらわれた。
いよいよ目的地だ。しかしここで問題がひとつ……
それは園内は一般車両の立ち入りが禁じられていること。
入り口には侵入防止の頑丈なポールが立てられており、クルマは通れない。
いちおう関係車両用の出入り口もあるが、そちらを利用しようとすればぐるりと裏手にまで回らねばならない。
けど星華たちはポールや柵なんぞはひょいとひとっ跳び、なにせウマなもので。
ただでさえ遅れをとっているというのに、さらなるタイムロスは致命的であろう。
そうこうしているうちに、夕凪組チームは公園入口へと到着した。
案の定、等間隔に配置されたポールが行く手を阻む。
いったいどうするのかと千里がやきもきしていたら、クルマを停めた蓮が「じゃあ一期くん、お願いね」と言った。
で、頼まれた一期が腕に刃を生やしてバッサリやるのかとおもいきや、さにあらず。
「ほら、ボサッとするな。いくぞセンリ」
「ですよね~」
今宵二度目の憑依にて、邪魔なポールをまとめて薙ぎ払う。
すぐさまクルマに乗り込み、一行は先を急いだ。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる