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022 伊白塚公園
しおりを挟む劉生と星華ペアが掟破りのショートカットを敢行する。
そのせいでせっかく追いついたとおもったら、またもや引き離された。
いかに蓮が優れたドライバーで、愛車がラリーカーの名車の市販モデルを魔改造したモノとはいえ、さすがにこれは真似できない。
道なりに進むしかない千里たちは、山の斜面を駆け登っていく星華たちを見ていることしかできなかった。
「はぁ、やられたわ。……っていうか、始まってからこっち、してやられてばかりね」
蓮のつぶやきに、車内の空気がどんより。
ショートカットがどれほどの差を生むのかはわからないものの、確実に勝敗に響くことだけはたしか
旗合戦は五番勝負だが、もしも二連敗となれば相手方のリーチとなる。こちらとしては、もうあとがない。
しぃんとなる車中、アスファルトにタイヤが刻まれる音だけがやたらと響く。
気まずい沈黙に耐えかねて千里が口を開いた。
「え~と、まぁ、それはともかくとして……ずっと気になっていたんだけど、どうして今回は伊白塚公園のアレがチェックポイントに選ばれたのかな?」
目指す伊白塚公園はドーム球場三個半ほどもある、とても広大な公園だ。
自然豊かで敷地内には古墳が点在し、現在は埋め戻されているが弥生時代の住居跡が発見されたこともある。
運動場にテニスコートやアスレチックなども併設されているが、園内でひと際目を惹くのが一角をデンと占めている大きな人工湖である。
もとは沼地であったのを湖にしたというが、その真ん中には小島が浮かんでいる。
小島に向かうには貸ボートを利用するか、湖畔から通されている細い一本橋を渡るしかない。
その島にモニュメントがそそり立つ。
千里がアレといったのは灯台のモニュメント……模したものではない。どこぞより移築してきた本物の灯台である。ちゃんと灯りもつくそうだが、あいにくと千里はまだ見たことがなかった。
どうして今回のチェックポイントに灯台のモニュメントが選ばれたのかが、千里はずっと引っかかっていた。
その疑問に答えたのは一期である。
「……前回は仁で今回は義、義にはいろんな意味がある」
義とは、人間の行動・思想・道徳で「よい」「ただしい」とされる概念であり、正しいとする行いを守ること。
だが本来、義という文字には「外から来て、固有ではないもの」という意味があった。
義手、義足、義父母、義兄弟などの言葉にはそうした意味が含まれ、のちには血縁関係にない仲間同士を結びつける倫理をも指すようになる。
いろんなものを結びつけていくうちに、いつしか「他者と共同で行う第三者のための事業」の意味をも持つようになったという。
「なるほどねえ。だとしたら公園の灯台モニュメントってのは、案外妥当なチョイスなのかもしれないわね」
蓮が感心し、千里もウンウンうなづく。
にしても一期はけっこう博識である。
などと千里が密かにぶっきらぼうな青年のことを見直していると、『この先、百メートル、伊白塚公園』との看板が道端にあらわれた。
いよいよ目的地だ。しかしここで問題がひとつ……
それは園内は一般車両の立ち入りが禁じられていること。
入り口には侵入防止の頑丈なポールが立てられており、クルマは通れない。
いちおう関係車両用の出入り口もあるが、そちらを利用しようとすればぐるりと裏手にまで回らねばならない。
けど星華たちはポールや柵なんぞはひょいとひとっ跳び、なにせウマなもので。
ただでさえ遅れをとっているというのに、さらなるタイムロスは致命的であろう。
そうこうしているうちに、夕凪組チームは公園入口へと到着した。
案の定、等間隔に配置されたポールが行く手を阻む。
いったいどうするのかと千里がやきもきしていたら、クルマを停めた蓮が「じゃあ一期くん、お願いね」と言った。
で、頼まれた一期が腕に刃を生やしてバッサリやるのかとおもいきや、さにあらず。
「ほら、ボサッとするな。いくぞセンリ」
「ですよね~」
今宵二度目の憑依にて、邪魔なポールをまとめて薙ぎ払う。
すぐさまクルマに乗り込み、一行は先を急いだ。
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