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011 無限敷き畳地獄
しおりを挟む第二校舎とクラブ棟を繋ぐ渡り廊下が崩落した。
始まってからは、あっという間であった。
渡り廊下があったのは二階なので、高さはさほどでもない。
とはいえ、t単位の量の瓦礫が降り注ぎ山となる。
そんなシロモノに巻き込まれては、ただでは済まない。
もの凄い地響きがしたとおもったら、大量の粉塵が舞い、もくもくと土煙が霧のごとく垂れ込め一帯を覆い隠す。
床が抜けた。
ふたりが落ちていく。
上から眺めていることしかできない精神体の千里であったが、その身が急にクンっと引っぱられた。
凄い力で抗うこと適わず……
と、次の瞬間には視界が一変しており、うっかり煙を吸い込んだせいでゲホゲホ激しく咳き込むハメになる。
「へっ、体に戻れたの――って、アイタタタ。うぅ、お、お尻が割れる……尾てい骨を打ったぁ」
どうやら落ちたひょうしに、おもいきり尻もちをついたようだ。
そのせいで憑依が解けてしまったらしい。
「痛っ……ハッ、一期、一期はどこ?」
もしかしたら瓦礫の下敷きになっているのかもしれない。
「えらいこっちゃ」
千里はキョロキョロ、邪魔な煙を払いつつ彼の姿を探す。
するとさいわいなことに、彼はわりと近くに倒れていた。
「ちょっと、大丈夫なの」
痛む腰をさすりつつ千里が声をかければ、
「……ぐっ、問題ない。それよりもすぐにこの場を離れるぞ。ヤツはまだ――」
一期の言葉は途中で遮られる。
白煙を掻き分けるようにしてぬぅん、夾竹が姿をあらわす。
ズルリズルリと巨体を引きずるようにして歩く、蜘蛛女は全身傷だらけにて見るも無残なありさま。なまじ化生の姿となっていたのが仇となり、崩落にまともに巻き込まれてしまったらしい。
美しい顔の皮膚も破れ、奥に潜んでいた六つの不気味な目が剥き出しとなっていた。
だが、それでも動いている。
しぶとい……、夾竹まだまだ殺る気だ。
けれども、こちらはそうもいかない。頼みの綱である一期の化生は解けてしまっている。
戦いの継続よりも、真っ先に退避することを指示していたことからして、あの憑依とかいう技には、なんらかの使用制限があるとおもわれる。
つまるところ千里たちは、もはや打つ手なしということ!
絶体絶命のピンチであった。
◇
いよいよ万策つきたかという場面にて――
それは何の前触れもなく近づいてきた。
ペタ、ペタ、ペタ、ペタ、ペタ……
緊迫感の欠片もないのはサンダルの音。
「おうおう、これまた派手にやりやがったなぁ。後始末がたいへんだ」
ぶわっと風が吹いて、土煙を散らす。
あらわれたのはカラフルな柄のアロハシャツに短パン、サンダルにサングラスというハワイアンな格好をしたおっさんであった。
葉巻をくわえたおっさんは、一期をチラ見し「やれやれ、なんてザマだよ。ったく、しょうがねえなぁ」とため息をつく。
「万丈……来てくれたのか」
「まぁな。ほれ、もうあんまり時間がねえぞ。このおっかない姉ちゃんの相手は引き受けてやるから、おまえは嬢ちゃんを連れて、とっととチェックポイントに行ってきな」
ふざけた格好をしているけれども、このおっさんは味方らしい。
新手かと内心ビクビクしていた千里は、ほっと胸を撫で下ろす。
しかし勝手に話を進めるおっさんに、夾竹はぶちギレた。
「あん? ふざけんな、ここまでコケにされておいて、おめおめ逃がすわけないだろうがっ!」
言うなり夾竹は鋼糸を飛ばし、健在な足を大きく振り上げる。
狙いあやまたず、糸は千里の首を刎ね、足の尖った先端が倒れている一期の腹を踏み抜きズブリと穿つ。
あっさりふたりを片付けた夾竹は、ついでとばかりにおっさんの胴体をも真っ二つにした。
目にも留まらぬ早業、残忍で容赦のない攻撃、三人をまとめて始末した夾竹がケラケラ笑う。
が、その表情がすぐに困惑へと変わった。
三人の遺体が忽然と消えてしまったからだ。
「どういうことだ? たしかに手応えはあったのに」
狼狽する夾竹をさらに混乱させたのが、周囲の景色である。
がらりと様変わり、イ草が薫る畳敷きの大広間となっていた。
座敷に夾竹はぽつねんとひとり佇む。
「なんだ……ここは?」
ついいましがたまで瓦礫だらけの中庭にいたのが、唐突に背景が入れ替わった。
ドスドス踏み鳴らしながら座敷を横断して襖を開けてみれば、その先もまた大広間となっている。
東西南北、どこへ進んでも同じ景色が延々と続いており、どこにも出口がない。
アロハシャツのおっさんの幻術。
姿をあらわした時点ですでに異能を発動していたのである。
そうとは気づかず、まんまと術中にハマった夾竹は幻影のなかを彷徨い続ける。
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