1 / 72
プロローグ お白洲
しおりを挟むとにもかくにも空気が重かった。
皆しかめっ面だ。ようやく口を開いたかとおもえば、出てくるのは相手を貶し、否定する攻撃的な言葉ばかり。
品のない雑言は聞くにたえない。
たまらず耳をペタリと伏せて騒音を遮断する。
双方譲らず、両陣営が一触即発でのにらみ合い。
そんな状況が、かれこれ三日も続いている。
上段の公事場なる座敷から、その様子にジト目を向けては、
「はぁあぁぁぁぁぁ~」
深いため息をついたのは、ネコ奉行の近山銀五郎許元であった。
このお白洲は、抗争を続けている二派を調停するために開かれたもの。
ちなみにお白洲とは、訴えがあったときに開かれる法廷のことであり、ネコ奉行はそれを差配する役を担っている。
ここのところ争いが激化しており、方々より苦情が寄せられたため、ついに猫嶽が重い腰をあげ奉行を派遣した。
だが、いざフタを開けてみればご覧のありさま。
どちらも歩みよる気なんぞは、さらさらナシ。
これにはほとほと手を焼いている。
「あちらを立てればこちらが立たず、その逆もまたしかり。はてさて、どのように沙汰を下したものやら」
困っていた銀五郎であったが、その時のこと。
いきり立つ両陣営、その一方の片隅にて静かに挙手している者の姿が目に留まった。
言いたいことがあるのならばとっとと言えばいいものを、わざわざ銀五郎から声がかかるのを静かに待っていたらしい。
(好き勝手にギャンギャン吠える連中ばかりかとおもったが、なんと奥ゆかしい……)
殊勝な態度に感心した銀五郎は「そこの者、何か言いたいことがあるのか? 許す、申してみよ」と発言の機会を与えた。
指名を受けた者は洗練された仕草にて慇懃な挨拶をしてから、一同を見回しこう言った。
「このままでは埒があきません。無為に時間が過ぎるばかり……、でしたらいっそのこと『旗合戦』にて白黒つけるというのはいかがでしょうか」
旗合戦――
それは、いにしえより伝わる調停の儀である。
最後に行われたのは随分昔のこと、途絶えてひさしい。
復活するとなれば、じつに三百年ぶりとなろうか。
この提案は賛成多数により可決され、ネコ奉行・近山銀五郎許元の名のもとで近日中に開催されることが正式に決定された。
1
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治
月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。
なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。
そんな長屋の差配の孫娘お七。
なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。
徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、
「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。
ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。
ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。
かめさま
やまたか
ファンタジー
なんの変哲もない平凡な日々を送る、これまたなんの変哲もない青年。
かみさまにお願いごとをしようとしてつぶやいたのが、言い間違いで、
「かめさま」と言葉を発してしまった。
そんな彼の目の前に現れたのは、めちゃくちゃふざけた爺さんであった。
果たしてかめさまは、願いを叶えてくれるのであろうか。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
心の落とし物
緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも
・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ )
〈本作の楽しみ方〉
本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。
知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。
〈あらすじ〉
〈心の落とし物〉はありませんか?
どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。
あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。
喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。
ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。
懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。
〈主人公と作中用語〉
・添野由良(そえのゆら)
洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。
・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉
人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。
・〈探し人(さがしびと)〉
〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。
・〈未練溜まり(みれんだまり)〉
忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。
・〈分け御霊(わけみたま)〉
生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。
いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚
ススキ荻経
キャラ文芸
【京都×動物妖怪のお仕事小説!】
「目付け役」――。それは、平時から妖怪が悪さをしないように見張る役目を任された者たちのことである。
しかし、妖狐を専門とする目付け役「狐番」の京都担当は、なんとサボりの常習犯だった!?
京の平和を全力で守ろうとする新米陰陽師の賀茂紬は、ひねくれものの狐番の手を(半ば強引に)借り、今日も動物妖怪たちが引き起こすトラブルを解決するために奔走する!
これは京都に潜むもふもふなあやかしたちの物語。
第8回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました!
エブリスタにも掲載しています。
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。
真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる