乙女フラッグ!

月芝

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プロローグ お白洲

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 とにもかくにも空気が重かった。
 皆しかめっ面だ。ようやく口を開いたかとおもえば、出てくるのは相手を貶し、否定する攻撃的な言葉ばかり。
 品のない雑言は聞くにたえない。
 たまらず耳をペタリと伏せて騒音を遮断する。
 双方譲らず、両陣営が一触即発でのにらみ合い。
 そんな状況が、かれこれ三日も続いている。
 上段の公事場なる座敷から、その様子にジト目を向けては、

「はぁあぁぁぁぁぁ~」

 深いため息をついたのは、ネコ奉行の近山銀五郎許元ちかやまぎんごろうもともとであった。
 このお白洲は、抗争を続けている二派を調停するために開かれたもの。
 ちなみにお白洲とは、訴えがあったときに開かれる法廷のことであり、ネコ奉行はそれを差配する役を担っている。
 ここのところ争いが激化しており、方々より苦情が寄せられたため、ついに猫嶽が重い腰をあげ奉行を派遣した。
 だが、いざフタを開けてみればご覧のありさま。
 どちらも歩みよる気なんぞは、さらさらナシ。
 これにはほとほと手を焼いている。

「あちらを立てればこちらが立たず、その逆もまたしかり。はてさて、どのように沙汰を下したものやら」

 困っていた銀五郎であったが、その時のこと。
 いきり立つ両陣営、その一方の片隅にて静かに挙手している者の姿が目に留まった。
 言いたいことがあるのならばとっとと言えばいいものを、わざわざ銀五郎から声がかかるのを静かに待っていたらしい。

(好き勝手にギャンギャン吠える連中ばかりかとおもったが、なんと奥ゆかしい……)

 殊勝な態度に感心した銀五郎は「そこの者、何か言いたいことがあるのか? 許す、申してみよ」と発言の機会を与えた。

 指名を受けた者は洗練された仕草にて慇懃な挨拶をしてから、一同を見回しこう言った。

「このままでは埒があきません。無為に時間が過ぎるばかり……、でしたらいっそのこと『旗合戦』にて白黒つけるというのはいかがでしょうか」

 旗合戦――
 それは、いにしえより伝わる調停の儀である。
 最後に行われたのは随分昔のこと、途絶えてひさしい。
 復活するとなれば、じつに三百年ぶりとなろうか。
 この提案は賛成多数により可決され、ネコ奉行・近山銀五郎許元の名のもとで近日中に開催されることが正式に決定された。


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