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第十一の怪 かごめかごめ その五
しおりを挟む五名の部員たちが聞き集めた証言をもとに、部室の作業台の上に広げた校内の見取り図に赤い丸シールをペタペタ貼っていく。
シールを貼るのはうしろの花子さんに遭遇したとおもわれる場所である。シールを貼ったら下に遭遇した日付や時間帯、その日の天候などについてもわかった範囲で記入していく。
校内のみならず、体育館やグラウンド、飼育小屋付近、花壇の周辺などなど。
玉川小学校の広い敷地内にて「誰かがいるとおもったのに、ふり返ったら誰もいなかった」現象は起きていた。
でも、うしろの花子さんマップを作成していくうちに、シールが集まっている箇所があらわれる。
それは……
「まさかこんな結果になろうとはねえ」
「一ヶ所ならばともかく二ヶ所か」
「たまたま……じゃないよね?」
「アレってどっちも勘違いだったんじゃなかったの」
「……そのはずだったんだけど」
上杉愛理は「う~ん」と唸り、村上義明はマップをじっとにらんでいる。里見翔は顔を引きつらせ、四年生コンビの明智麟と松永美空は互いに顔を見合わせていた。
調査結果から判明した、うしろの花子さん現象が頻発していたのは校舎内の二つの地点である。
ひとつは階段の六階踊り場付近。
ここは玉川小学校の七不思議「消えた大鏡の怪」の舞台となった場所である。
踊り場にあった大鏡がいつの間にか消えており、代わりに怪しげな女の幽霊のような影が壁に浮かび上がってきたというもの。
だが真相はこうだ。
雨漏りにて腐蝕した壁、その影響で留め金がはずれて落ちた鏡がガッシャン! 壊れて撤去されただけのこと。影みたいなのはただの染みと黒カビにて、パレイドリア効果によるもの。
とどのつまりは目の錯覚、ただの勘違いである。
もうひとつは五階の廊下。
こちらは七不思議「追いかけてくる足音」が話題となっているところだ。
放課後とかに、ひとりで歩いていると、背後からヒタヒタと足音がついてくる。ふり返ってみたら誰もいなくって、どうにかして正体を突き止めてやろうとすると、見えたのが小さな子どもの足だけだったというもの。
でも、検証結果によって判明したのは、長いトンネル内を歩いていると、聞こえるのと同じような現象であるということ。どうやら長い廊下にてすべての窓や戸を締め切った状態になると、五階の廊下では条件が整うらしい。
つまりは、こちらも勘違いということだ。
なお、後半の足うんぬんのくだりは、たぶんウワサが広まるうちに誰かが面白半分に盛った脚色だとおもわれる。
七不思議に関しては第二編集部が総力をもって調査した。
みずから現場に足を運び、実地検証を行った上で結論を下し記事にした。
一部不可解な点は残ったものの、まぁ、それはそれである。すべてをつまびらかにするのは野暮というものであろう。
じつはうしろの花子さんマップの作成において、もうひとつ気になることがある。
それは証言を集めている過程において「なんだか白い火の玉みたいなのを見かけたような気がする」というもの。
大きさはラグビーボールぐらいにて、モコモコしていたような……
そんなのが視界の隅をちらりと横切った。
……かもしれない。
みんなが見かけたわけではない。それでも全体の二割近くから似たような証言があがっている。
とはいえ、あくまで証言の末尾に「かもしれない」「ような気がする」という尾ヒレがくっついているけれども。
あやふやかつ、信憑性に欠ける証言である。
でも、調べる対象そのものがあやふやなモノなので、一概に否定はできないところが、ちと悩ましい。
にしても、よもや今頃になって小学校の七不思議が絡んでくるとはおもわなかった。
一同が困惑していると、「あれ?」とつぶやいたのは麟である。
マップを眺めていて気がついたことがある。
それはうしろの花子さんは確かに校内のあちらこちらに出没しているらしいのだが、意外にも外の方にも多いということ。数えてみたら全体の三分の一は外である。しかも晴れの日ばかりだ。ひょとしたら出現条件なのかもしれない。
でも、この麟の考えは翔によって一蹴された。
「そんなの当たり前だろう。誰が好き好んで雨の日に、わざわざぬかるんだグラウンドなんぞに出るもんか」
雨の日には屋内にこもる。子どもたちが近寄らないがゆえに、外でうしろの花子さんと遭遇する機会がぐんと減る。
言われてみればたしかにその通りにて、いちおうは麟も納得した。
でも本当にそれだけが理由なのであろうか?
この時に麟が抱いた小さな疑念――じつは直感に近しいものにて、うしろの花子さんの正体を暴く重要なヒントであったのだけれども、そのことをみなが知るのはもう少しあとになってからのことであった。
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